《MUMEI》 仕事終わりになな君からメールがきていた。 録画のことと土産のことについてだ。 一応、ちゃんと撮れたか再生してみた。 高遠が準主役くらい出突っ張りだった。最初は止めようとしたが、高遠が台詞を言うとつい見てしまう。 ちゃんと仕事らしいことをしていた。 病に倒れた父とそれを支える母、その二人の子が今が旬の若手女優と高遠だ。 父親とは衝突が絶えなく両親の悩みの種という役柄だった。 少し俺に似た設定だ。 抜群に高遠は演技に長けていた。こいつにこんな才能があったなんて……。 父親と和解して涙するところは見惚れるくらい純粋なものに見える。 あいつの中のどこにそんな美しいものがあるのか不思議だ。 あいつのことは綺麗な部分しか映さない電波には解らないだろう。 同情というやつなのか、そんなもの、あいつが一番嫌うものなのに。 画面に映る涙を流す高遠を見るたび泣けずにいる無言の高遠が俺を見ている気がした。 誰も胸を貸してくれないから泣けないのだろう。 だからこんなにも寂しそうに演技して泣くのだ。 前へ |次へ |
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