《MUMEI》

あー……、ウチ先輩が見ている。
最近よく木下先輩といるから誤解されてそうだ。また殴られたらどうしようか。

ま、どっちにしろ関係の無いことか。今のバスの席だってたまたま振り分けられたものだし。

それで別れたならそこまでの関係だったってことだ。

「高遠、飴食べる?」

木下先輩から飴を貰う。実は甘いの苦手だがウチ先輩が面白いからつい手を触れたりしてしまう。
全く気が付かない木下先輩も凄いな……

「……性悪」

後ろから初恋相手のお言葉が……。
娯楽が少ないんです。

「あ、林檎が美味しいよ」

木下先輩は脳天気に飴の話を続けている。

「いや、これでいいですから。」

「そう……。」

じっと見られた。何を言い出すが身構えたが特には無いようだ。

バスの中でうとうとしてしまっていた。


会場に到着してからは去年通りに鑑賞メインである。座りっぱなしも楽ではない。気分転換にトイレを探しに廊下に出た。


「あれ、先輩。」

美作先輩がいる。恐らく同じ理由だろう。
あからさまに嫌な顔された。嫌われてんなー。

「トイレあっち。」

行動パターンを読まれている。

「嫌いですか俺のことは。」

思い切ったことを言ってみた。

「他人の意思より自分の感情優先だと思ってた。」

涼やかな瞳が少し見開かれる。

「やっぱり、好きな人から嫌われたら悲しいかなって思って。俺はそんなにダメなんですかね。」

廊下で話す内容ではないので自然にトイレに向かう。

「……さあね。俺は浮気とかしたくないし年下範疇外だから。
お前が誰を好きになろうとも興味無いけど、そのお前の恥を捨てているのに自分は捨てきれていない恰好付けなとこがいけ好かなかったな。」

歯切れのいい言葉がずしりときた。

「恰好つけですか?」

「なんか、言いたいこともなにもかも隠しているかんじ。悪く見られてもいいから本心は最後までみせたくないみたいな。
気は引けてたとしても本気にはなりえないね。」

うわ、言う言う。

「……フラれた理由分かりました。
いいな、恋人。両想いって奇跡ですよね。」

好きな人が好きになってくれるなんて。

「今の顔で迫られたらまだ張り倒して逃げなかったかな。
あれは、悪かったよ。」

淡々と波もたてず静かな謝罪が響いた。

「いや、普通に未練たらしいだけでしたし。
過ぎたことを掘られる方がかえって辛いです。」

散々だった。あれがあってこそだったのだが。

「ちゃんとはっきりしとかないと気まずいんだよ。」

深いため息が漏れた。荒んだ顔もカッコイイ。

「恋人ですか。先輩思ったより、ナイーブですね。」

「そっちじゃない。二郎の方。あれからまともに話してくれないから、けじめつけとかないと。
絶対お前の方に感情移入してる。」

恋人より友情なのか?いずれにしろ二度もフラれたことに変わりは無い。

「そんな理由で……凹む。やっぱり雄は木下先輩みたいのがいいんですかね。」

ため息が伝染る。

「……二郎と比較すんな。」

「片思いの運命なんですかね、俺が面食いだからいけないのか。
好きになるたびこんなにも苦しいなら愛なんて感情いらないのに。」

「愚痴は聞かないから。」

つめたーい……。

「先輩のその無関心さが好きでした。」

「……俺本当は優しいから」

自分で言うと説得力がない。

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