《MUMEI》

遠征を終えて二日振りに帰宅。家の鍵が閉まっていた。

「いやに静かだな。」

おかしい。反応が返ってこない。

「いるんだろ?」

自分の声が居間を反響する。

「ちとせ……?」

久しぶりに名前で呼んでみたが本人はいなかった。

千歳が失踪した。持っていた全ての荷物もなにもかもマジックでも見せられたように形跡が無い。

何処へ行ったんだろう行く宛もないくせに。

だからこそ、探しに行くような場所も知らない。
……千歳ならその辺の女たぶらかしてヒモになるくらい訳無いことかもしれないが。

…………居て欲しいなんて考えたことなかったけど。

いきなり居なくなるとなんか不気味。

絶対出ていく気無いと思っていたから一体どういう心境の変化なのか。




まだ少し混乱してる。

いいや、寝てしまえ。疲れてしまった。
ベッドに突っ伏す。体温で徐々に布団が温まる。生温さが心地良い。ゆっくり眠るなんてこと忘れていた。とろとろ瞼が落ちてくる。




「……………………………………国雄」


……今なんて言った!
自分の発言で目を覚ます。どれだけ惚れたんだよ。

布団を蹴った。叶わないものを蹴散らしてやりたかった。

千歳が消えてすぐ国雄に意識がいくだなんて虫が良すぎないか。

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