《MUMEI》

「よくわかったね連絡先」

先に向こうが席を取ってくれている。金髪長身で目立つからすぐ気が付いた。
最近来た場所だから迷いそうになる。

向こうは黙ったまま人差し指で二回テーブルを突いた。向かいの席に座れとのことだろう。
指示に従う。

「で、何?」

俺の質問を合図に奴は煙草に火をつけ始めた。勿体振るつもりか。



「読みましたよ、最近の著書。」

大きな手に煙草は持ちにくそうだ。

「どうもぉ……。早いね読むの。」

この間会った学校祭から二日しか経っていない。

「寝てません。」

目の回りがどんよりしているのはそのせいか。

「感想聞きたいね。」

「眠い。」

一言発した彼の口から出た煙が渦を巻いて掻き消えた。

「退屈だった?」

「……ええ、実に屈折している。
殺人事件を解決する主人公に見えてるが、彼の一人の少女に対する執念が、凄まじかった。」

本当に感想を述べてた。

「……執着も愛の一部だ。」

俺はそう思う。

「全て愛だ、と?」

確かめてくる。

「別に相手に愛してもらう必要はない、忘れないくらい深い傷を負わせて従わせればいいんだ。
麻薬も苦しければ苦しいほど依存性も高まる。」

光が抗うほどに例えようも無い愉悦が、劣情が沸き起こった。

「そんなものが愛と?

俺は知っている。貴方の言うものは愛でもなんでも無い。
もう失っている。」

人目を引く容姿に低く響く声が印象的だ。

「君には分かると思っていたのに。アレは俺だ。
もう一つの俺だ。」

綺麗だったから、俺がこの手で汚してやった。
父親が愛人の家に行く間、母親の相手をして一人にさせて、縋らせたのも俺だ。

まるで聖人のように光に振る舞う一方で、光を虐げるつもりで睦美を抱いていた。『新しい父親』になろうと甘く囁いた。光は応じたことなかったけれど。

光を寿史が抱いたのは誤算だ。あんな男に取られたと思うと頭が真っ白になった。


母親を抱きながら光を抱く。俺の所有物だと光に刻むのも時間の問題だった。

睦美が縋ったのは俺だ。


「あいつに固執する理由は借金返済のためですか?」

「聞いたんだな寿史に。」

「脅しているんですか?マスコミに売るようなもの持って。」

疑問なのに威圧的だ。

「売るような、もの……ね」

可笑しい、笑ってしまった。

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