《MUMEI》

「悪かったよ、馬鹿にしている訳ではない。」

睨み殺す勢いだ。

「……貴方がこれで納得いかないなら他の待遇も考えます。
貴方が今後光と一切関わないという条件を飲み込んでくれるならね。」

新しい煙草に指を運ぶ。俺も一本貰う。

互いの煙がぐるぐる廻って掻き消えてゆく。

「……あの子そんなに良い?俺はね、自分の子供みたいに思っていたよ。
だから、恋愛感情抜きで愛していたつもり。
可哀相な弟に母の寂しさを紛らわせ新しい家を作った。俺から光を捨てても光から俺は捨てられない。」

光だけは俺を捨てない。
国雄が吸い始めの煙草を灰皿に捨て立ち上がった。

「……出ましょうか。」

伝票を持って支払ってもらう。
人気の無い道まで案内されるとすぐ土下座された。


「何の真似?」

2メートルの塊が縮小する姿は何だか愉快にさえ思えた。

「高遠光を自由にしてやってください。」

「一回寝ただけでどうしてそこまでするの?」

目の前にしゃがんで高さを合わせた。

「……似た理由かもしれません。
あいつが自分で考えて、意志を持って生きていてほしい……見届けたい。
そのためなら何でもしたい。……嫌われて忘れられても。」

…………忘れられても?


「君は誰かな?
俺の知る小暮国雄は人一人陥れても冷然としているような狡猾な男だった。」

そこが似ていた。何にも捕われずに、三津井レイという幼なじみ以外には関心も抱かない。

「…………高遠光を自由にしてやってください。」

彼の後頭部は下がったままだ。

「そう、じゃあ行こうか。」

「……え?」

俺の言葉の意味を理解していない。それはそうだ。

俺だってわからない。

ただ、もう疲れてしまった。

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