《MUMEI》

国雄が出勤に向けてスーツを着込んでいた。俺は上がまだ先刻のままだ。
髪を整える後ろ姿を見ながら思ったことを言ってしまった。

「初めてだったんだよな?」

怖いくらい簡単にイった。

「……当たり前でしょう。こんな気持ち悪いのもう二度しない。
腰も入口も痛いし、ネコって凄いな。」

彼は下腹部を摩った。セックス前の浣腸が相当堪えたようだ。

「光に罪悪感?」

「……前々からそれは……。まあ、お互いもう会うことも無いだろうし。」

光も俺達も、という意味だろう。

「なんか、すっきり。
俺って光以外でも本気でヤれたんだ。」

奇妙な爽快感がある。

「俺はずっしりです。


……何処行くんですか?」

「余った金で海外にでも住もうかな。」

「南の島とか?」

それもいい。

「……まあ、秘密があった方がカッコイイか。」

上着を着る。




「さようなら」

別段変化も無いようにけろりとして最後になるであろう言葉を国雄が言った。

「ああ。」

相槌だけ打って去る。口数が少ない方がカッコイイからだ。

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