《MUMEI》 「レイさん、彼誰かに似てますよね。」 「興味ないねー。」 助手席の国雄が嘯いた。我関せずと後部座席で寝たふりをしておく。 「彼どうします?」 「俺と同じところで降ろして。」 「……知り合いですか?」 「…………甥。」 吹き出してしまいそうだった。 国雄のキスがまだ口に残る。あんなに熱烈だと思わなかった。 また更に彼にハマってしまう、抱いて欲しくなってしまう。国雄無しじゃいられない体になっている。 ぐるぐると思考が廻っていた。 橋のところで降ろしてもらう。車が遠く走り去っていくまで見送る。 「…………明日仕事?」 開口一番質問された。 「……ない。ないよ。だって今のドラマ撮影は俺の役死んで区切りついたし。」 「死ぬのか!」 「うん……。もしかして見ててくれたり?」 このリアクション……、俺のこと、見ててくれた? 「まじかー……死ぬかー」 国雄はブツブツ独り言を呟いた。小雨はすっかり止んだが寒気がする。 「今日は家に来いよ」 俺の手首を捕まえて強引に歩きだした。 「……ちょ、ちょっとどうしたの?」 国雄の家に行っていいだなんて、まだよく彼が理解できない。 「手が冷えてる」 「俺……分からないよ。鍵だってどうすればいいの? 触られたら、そんなことされたら俺…………」 この数ヶ月、国雄を想いながら一心不乱に働き続けてきた。 完璧に片思いで独りよがりでも俺には国雄が全てだから。 忘れようとしたこともあるけれど、結局は国雄のことを更に深く愛してしまっていただけだった。 もうずっと彼しか愛せていない。 「好きなようにすればいい。お前は自由だ、鍵をどう使うか、この手を振り切るかは全てお前の選択次第さ。戸惑うばかりでは何も始まらない。」 選択?自由……?俺が考えていいの?言ってしまっていいの? 「……ありがとう。」 これ以上彼に相応しい言葉は見付からない。鍵を握りしめ国雄を追い越して急かした。 負けじと向こうも走る。二人全速力で薄暗いアスファルトの上を駆け抜けた。 前へ |次へ |
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