《MUMEI》 以前と同じくシャワーを借り終わると氷入りであったろうお茶が冷たくなって置いてある。 洗面所の方から流水音が響く。俺の後にシャワーを浴びていた。 俺ほどではないけれどキスしたとき雨に打たれたからだ。 「……話そうか。」 ジャージになった国雄が俺の前で胡座をかく。威圧的で緊張した。 「……俺をどうしてまたここに呼んでくれたの?」 「分からないな。 でも俺も感謝しなきゃいけない、ずっとつっかえていたものが取れたから。」 「レイのこと?」 「そう。」 煙草に手を伸ばして止めた。 「綺麗な人だった?」 胸が苦しい。 「……いいや、ちっさい母さんだったな。血の繋がった家族みたいだった。」 脳裏に一瞬、千歳が過ぎる。 「……好きだった?」 「感謝しか今はない。」 「俺、国雄に嫌でも目に入るように働いてきたつもり。まだ未熟だし、迷惑かもしれないけど想うのは自由だよね? 他の恩返しが分からないから……。」 「見てたよ。これからも見るよ。 俺が買った自由だ。」 俺は国雄に買ってもらったんだ。 「じゃあ……俺は国雄のモノ?」 「そうかもな。」 「縋って挑発して無理矢理犯してもらいたいくらい嬉しいよ。」 ……でも、しない。 「俺も」 「………………え?」 聞き間違えたかと思うより早く抱き寄せられた。 「待って、どうして、俺のこと嫌いなんでしょ?」 心臓の音がこれ以上無いくらい上がる。 「今は好きだよ。」 「はぁ?」 騙されてるのか?でも両の腕は離れる気配が無い。 「本当は今日会えて感動してる。お前が自分の意志で、俺が与えた自由で俺を想って俺のところにまた戻って来た……俺のモノだ。」 優しい言葉だった。 「そんなのずっと前からそうだったよ。 心も体もずっとずっと欲している。 …………もう五十万払うから、キスしようよ……」 抱きしめられるだけで肌が求めてしまう。そう生まれる前から決まっていたように。 「金のことはもういいから。俺が買ったんだ、お前は小暮国雄のモノとしてただ俺を愛していればいい。」 熱い唇だった。その言葉と一緒に俺の一部になっていく。 こんな俺でも誰かを愛していいのだと実感した。 前へ |次へ |
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