《MUMEI》
日記が語る過去
‥‥だから‥‥。

晴香は日記を強く握りしめた。
日記に涙が落ちた。

「ごめんね…八神…ぃ」
―貴方の気持ち…解ってあげられなくて…。

晴香は涙を拭って立ち上がった。
(季節ハズレの桜が咲くのは水の宮公園!八神はきっと‥)
「そこに居る!」
晴香は梅ヶ丘に気付かれないようにそっと部屋から出た。

急に現れた晴香に驚いた梅ヶ丘だったが、その晴香は何も言わずにスタスタと応接室を出て行った。
「なんだ…あいつ」
梅ヶ丘は呟いた。

晴香は靴に履き変えると走り出した。
水の宮公園までは走っても二十分…。
晴香は出来る限り足を動かした。
足が縺れそうになっても必死で堪えた。
―八神が消えてしまうような気がして…。
晴香の呼吸は乱れていた。



八神は未だに桜を見上げていた。
「父さんは…人生…楽しかったの?」
八神はあてもなく話し出した。

「父さんはいつも言ってたね…何があるか分からないから、人生は楽しいんだ…て…」
八神の瞳から再び涙が溢れた。
「でもさ…嫌な事を止めるために…僕は未来を…知っていたかったよ…父さん…」
八神は手の甲で涙を拭ったが再び溢れて来た。
「僕は薬物なんか嫌いだよ!勧める奴らなんか最低だ!あぁ」
八神は鳴咽するように泣いた。
小島の周りの道を歩く人々は八神を冷たい目で見ていた。

オレンジ色の太陽が、ピンク色に染まる桜と悲しみに埋もれた八神を優しく包み込んだ。

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