《MUMEI》
Close To You
『今、何か言いました?』
2ヶ月ぶりの再会を果たし、近くにいるのが不思議なかといって心が浮き立つ感覚をしまいこんだまま隣に座った。

楽屋のない店内の片隅に設けられたミュージシャン席。

隣にいることで何かを感じたのは彼の方だった。

騒々しい店の中で私の中から発信した微弱な電波をキャッチしていた。

でも、なぜか、気付かれたくないという気持ちが強くなってしまう。

高級クラブの店内はかなり騒々しく、客やホステス達の様々な思いが入り交じる世界。一見華やかであり、私たちバンド演奏者は虚飾の世界をさらに飾り立てている。いわゆる『高級な雰囲気』づくりのために雇われている。

かといって、誰も音楽を聴いてないわけではない。
こういうところの客はジャズの生演奏というカテゴリーの中で、何とか付加価値を見いだそうとする。
それが例え、ホステスとの会話で盛り上がっていたとしても。
だから、けして手は抜かない…!

『素晴らしい演奏だったよ!先生』
こういう所では演奏者は『先生』と呼ばれる。
そんな言い方、すごく恥ずかしい…。

昔のクラブのピアノ弾きみたい…。

今の自分も『クラブのピアノ弾き』に違いはないが。
そういったクラブのお客様は気前良くチップをくれたりする。
私たちの生活はこのような仕事で成り立っている、ありがたいと思っている。

休憩の時は、というと通常は我々は用無しだ。
ライブハウスの時のように休憩中にお客のテーブルに行って挨拶したり、お話したりする必要がない。
ここには接客のプロがいるから。

楽といえば楽。
休憩に入ったとたん、客の興味は別の方向に引き付けられる。


そう、だからこの時間は二人だけの時間となる。

だけど、この騒々しくよどんだ空気の中では私のかすかな思いなんか、かき消されてしまうんじゃないかと思う。

それにこんなに近くにいるとなるとどうしていいか、不安になる。演奏の時は平気なのに・・・。

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