《MUMEI》
表情
相変わらず、公園にひと気はなく、
そこは静かな空気に包まれている。


自転車を停めたあたしたちは、
並んでベンチに腰掛けている。


梶野が、何も喋らなくなってしまった。

あたしも、梶野の言葉を待つだけで、
言葉を発することができない。


―…いったい、何なの…!?


想いを巡らせていると、梶野がやっと口を開いた。


「…相原ってさ、おれの嘘に騙されたこと、ある??」


唐突な質問。


「…ある、…と、思う」

―…あるよ!!悔しいけど!!


「おれの嘘ってさ、くだんないのばっかだろ??」

「??…うん、まあ…」


梶野が何を言いたいのかわからないまま、
取り敢えず質問に応じる。


「…おれが、なんで嘘つくか知ってる??」

「…え…」


東郷君の話だと、
『東郷君を護るため』
―…だったはず…


「…司のため!!
―…とかって言ってたけどさ、

…いつの間にか、おれの為になってたんだ。」


そう言って、大きく息をつくと、
梶野はベンチから立ち上がった。


「…ぜんぶ、自分のため」

「…ど、どーゆう…」


梶野の真っ直ぐな背中からは、
その表情は読み取れない。


どういうこと…??

唐突過ぎて、話が…


「…例えば!!…いーっつも嘘つくやつがさ、
たまーに、ホントのこと言ったって、
…信じてもらえねえだろ??」

「…う、うん」


梶野が振り返る。


―…なぜだろう。

顔を見ても、

その表情が読み取れない…


笑ってるようで、
泣いてるようで―…


梶野はその表情のまま、言葉を続ける。


「…おれさ、自分の本音を人に悟られんのが、
―…だんだん怖くなったんだ。
なんでかは、上手く言えねーけど…。

―…とにかく、全部うそで塗り固めればいいんだ、
って思うようになったんだ」


そう言って微笑んだ梶野の瞳を見て、


―…あたしは、

梶野が嘘をつく理由を知った。

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