《MUMEI》
うそ
「……は……」



…疑問符も出てこない。

どういうこと…



「…おれ、今週の金曜に引っ越す」



「…引っ、越す…って、…どこに…
…け、県外…??」


状況を把握できないまま、
しどろもどろになりながら訊ねる。






「…アメリカ」






梶野から返ってきた答えは、

あたしの想像力では
到底追いつかないものだった。

ふうっと、ため息をつく。



「…なんだぁ…。嘘、か…」



また、騙されるとこだった…


あたしの呟きを聞き、
梶野は困ったような顔をして言った。



「―…相原。これは、ほんと。
…アメリカの、―…ネバダ州、って知ってるか??
―…おれ、そこに引っ越すんだって」


「―…え…??」


何、言ってるの…

…嘘、うそだよね??

なんでそんな訳わからない所に、
梶野が行かなきゃいけないの…



「…おれの父ちゃん、
ずっと県外に単身赴任してたんだけど、
…今年、アメリカに赴任決まってさ、

―…母ちゃんも、
これ以上父ちゃんと離れんのやだ、って。

母ちゃん、体弱いから
…おれが付いててやんねーと…」



―…ねえ、嘘って言ってよ…


なんで、いつもみたいに笑わないの…



「だから、せめて夏休みが終わるまで…
無理言って、引越し伸ばしてもらったんだ」



あたしの願いも虚しく、
梶野は、少しも笑わない。



「…うそ、でしょ…??」



あたしの口からは、

同じ言葉しか出てこない。



嘘、うそ、うそ、うそうそうそ…


―…信じたくない。



「…相原…??」



俯くあたしの顔を
心配そうに覗き込む梶野。



そんな顔、しないでよ…

『嘘だって!!』

―…って、いつもみたいに笑ってよ…!!!



「……星、また見れるって言ったじゃん…」



引きつった笑顔しかつくれない。


コドモみたいな言葉しか、言えない。



「―…相原…」

「…花火は…??
―…花火、来年も見るって言ったじゃん!!」



「……ごめん…」



「………っ!!」



謝らないでよ…


そんなに辛そうな顔で
『ごめん』なんて、言わないで―…



こみ上げてくる涙が零れ落ちてしまう前に

あたしはベンチから立ち上がり、駆け出した。


自転車のハンドルを握る。



梶野の声が、遠くに聞こえる―…



嘘、だ…



涙で遮られる視界。


何もかもを振り切りたくて、


あたしは


自転車のペダルを強く、強く踏んだ。

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