《MUMEI》

「……」


「……」


「……」


「……、お父さん、何か言わないと…」


「……」


「……」


横を見ると、膝の上の握りこぶしが震えている。


ゆっくり顔のほうに目線を上げると、真っ青になっていた。


(やばいなー…)


「お父さん」


三十分以上の沈黙のあとのあたしの声は、久しぶりに入った居間になぜか響いた。


「こちらが、石田達一さんです」


「……」
達一は、恐る恐る頭を下げた。


「……」
まだ無言の、父親。


「本当、立派な青年になられたわね〜」

達一に会いたがってた母は、達一の姿に昔を思い出しているようで。


あたしはもう一度父のほうに向いて、決定的な言葉を言った。


「結婚します。いいよね?」

「「!!!」」


お父さんと達一は一斉にあたしをガン見した。


「おまっ!それ俺の台詞っ…!!」

父親に睨まれているのに気付いた達一は、はっと口を手で覆った。


「お父さん、あたしの幸せが早くきてほしいって、七夕にお願いしてたよねぇ?」


「…っ…」


「あたし、幸せ見つけたよ?達一、バカだけど、お父さんと同じくらい、あたさのこと愛してんだよ?」


「バカって……」


「お父さん…」
「あなた…」


あたしとお母さんにメッポウ弱い父。


観念したのか、ついに口を開いた。


「っ…、達一、くん」


若干、鼻声。


「はっ、はい!」


「きょ、うは、泊まってくんだろ…?

一杯付き合え!!!バカ野郎!!!!」


「はい!!!何杯でも付き合います!!!!」




あーあ。言っちゃった。
知ーらない。

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