《MUMEI》

「クソー、俺の詩織を取りやがってー!!バカ野郎ー!!!」

「すいません!けど、俺もかなり苦労したんですよー!!!」



居間で、酔っぱらいが2人出来上がってる。


「ったく、さっきまでガチガチに震えてたくせに…」

「ふふふ、達一くんがあまりにもいい男になってたから、お父さんも諦めたんでしょ」


台所で、お母さんと2人で皿洗い。何年ぶりだろう。

「あ、しーちゃん、知ってる?」


「何を?」


「小学生のとき中学生のとき高校生のとき、達一くんうちに来たことがあるのよ」


「!!本当!?」


「うん。小学生のときはしーちゃんが風邪引いたとき。給食に出たプリンを持ってね。」


「あぁ、あれ??」


「そう。中学生のときは、しーちゃんがいじめられてるってことを私に教えに。まぁ知ってたけどね」


「……」


「高校生のときは、私立で元気にしてますか?って。あと…」


「なに?」


「たぶん、彼氏できたのか聞きに」
「!!」


お母さんはふふっと笑って続けた。


「ずーっと前から、達一くんはしーちゃんしか見てなかったのね〜。本当、いつになったら紹介してくれるのか、お母さんずっと待ってたのよ〜」


「ははは…」


まさか三十路になるまでかかったなんてねぇ、と、お母さんは呆れた表情で話をした。


あたしは、お母さんの話を聞いたあとからずっと、胸がいっぱいだった。

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