《MUMEI》

家に帰り着くと、すぐに自分の部屋に入った。


頭の中は、もうぐちゃぐちゃ。



「…幸??帰ってるのー?」



お母さんの声にも、こたえる元気が無い。



「…入るよー」



ガチャ。



そう言いながら、お母さんが
あたしの部屋に入ってきた。



「…勝手に入らないでよー…」



泣き顔を見られたくなくて、
枕に顔を押し付ける。



「あんた何言ってんの!!
ここはお母さんとお父さんが買った家なの!!
部屋に入る権利はおかーさんにあるの」



なんだ、その理屈は。

納得できるよーな、できないよーな…



「…なにか、あったのね??」



急に、お母さんの声のトーンが変わった。



「―…べつに」

「嘘つかないの!!
おかーさんには、分かるんだから。
…あの子のことでしょ??
ほら、なんてったっけ…
…かじ…梶、そう!!―…梶原君!!」

「…梶野、だよ…」

「―…ほら、やっぱりそうなんじゃないの!!
…女の勘よね!!!」



満足げにそう言うと、
お母さんはあたしの隣に腰掛けた。



「…で、何?喧嘩でもしたの??」



お母さんが優しく問いかけてくる。

あたしは、枕に顔を埋めたまま
口を開いた。



「…お母さん…」

「なに??」

「…ネバ…何とか州、って、知ってる??
―…アメリカの」

「なに??…ネバダ州のこと??
―…それが、どうしたの」

「…そこ、やっぱり、遠いよね…」

「そうねえ…
ラスベガスがある所だし…
映画なんかでしか知らないから…
―…で、それがどうしたの??」



―…ラスベガス…??

…って言ったら、カジノで有名なとこだ。


―…シャレにもなってないよ…



「…なんでもない!!
―…やっぱ少し、一人になりたい…」



もう、限界だ。

もう…なにも考えたくない―…



「―…そうだね。
そういう時もあるもんよ!!
…夕飯、食べたくなったら降りといで」


「…うん…
―……ありがとう…」



お母さんが、部屋を出るときに言ったひと言。



「…あんまり、意地張るのは止めなさいよ??」



この言葉が聞こえてきたとき、


あたしは、

深い眠りに引きずり込まれていった。

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