《MUMEI》
SHR
意を決して教室のドアを開けた。


…でも、梶野の姿はどこにもなかった。



「幸!おはよー」



マキが声をかけてきた。



「…マキ…」



振り返ると、



「どうしたの?
なにか…あったの…??」



と、心配そうに訊ねてきた。


あたし、そんなにひどい顔してる…??



「…ううん!!
昨日、徹夜したからー!!!」



無理に笑顔をつくって、誤魔化した。
マキに話したら、
きっとあたしは泣いちゃうから…



「…そう…??―…でも―…」



マキが言葉を続けようとしたとき。



「おらー、席ついてー」


間延びした工藤先生の声がした。


「えっと、じゃあ後でね!!」


あたしは、そそくさと自分の席に向かった。



全員が座ったところでSHRが始まり、
工藤先生は再び口を開いた。



「えーと、いきなりだが、今週の金曜、
梶野朋春が転校することになった」


教室がざわめく。


「はい、静かにー!
詳しいことは、
また木曜に梶野から挨拶あると思うから、
その時訊いてくれ。
えー、今日と明日、梶野は、
いろいろ手続きとか準備とかで欠席だからな!…以上」


教室がまたざわつき始めた。


マキのほうを見ると、マキもあたしの方を
目を丸くして見ていた。



―…少し、

ほんの少しだけ、


昨日の話が、嘘であることを期待、してた。


―…ばかみたい。


梶野の席を振り返る。


座ってもらえる相棒を失くした椅子は、


どこか寂しげに、佇んでいた。

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