《MUMEI》 手紙ユキナはため息をついて、一戸建ての小さな家を見上げていた。 サトシが退院してから一ヶ月。 家族を失ったサトシは親戚の家に引き取られたらしい。 たまにメールで知らせてくるが、やはり親戚とはあまり上手くいっていないらしい。 ユキナはプロジェクトが行われた街から離れ、別の土地で生活を始めた。 あの街が今、どうなっているのか。 聞いた話では、どこからか移住してきた外国人に開放しているらしい。 しかし、確かめようとは思わない。 もう、すべてがどうでもよかった。 引越しの荷物を片付けていると、プロジェクト中に着ていた服が出てきた。 血や泥で汚れ、穴だらけ。 もうとても着れる状態ではない。 捨てようとした時、グシャグシャになった紙が服のポケットからこぼれ落ちてきた。 「……なんだっけ、これ?」 首を傾げながらそれを拾い上げる。 「これ、病院で会った……」 それは病院で自ら死を選んだ女から託された手紙だった。 プロジェクトを生き延びたら、家族に渡してくれと頼まれていたのだ。 「……忘れてた」 ユキナはシワを丁寧に伸ばして住所を確認する。 汚れてはいるがまだ読める。 少しの間考えて、その手紙を鞄に入れた。 郵便で送るより直接渡したい。 そう思ったのだ。 そしてその日のうちに手紙に書かれた住所へ行き、母親に手紙を渡した。 すでに娘の死を知っていた母親は、涙を流してユキナに礼を言っていた。 ユキナは複雑な気持ちでそんな母親を見つめていた。 家から出る時に後ろで力無く呟く母親の声が頭に響いた。 「あの娘は、誰に殺されたんでしょうね」 誰に……。 あの人だけではない。 プロジェクトによって死んだ人は誰に殺されたのだろう。 プロジェクトを始めたあの竹山という男だろうか。 人を殺すことに楽しみを覚えた参加者たちだろうか。 プロジェクト開催に反対すらしない視聴者たちだろうか。 ユキナは家を見つめながら、もう一度ため息をついた。 「あのプロジェクト、結局何の意味があるんだろ」 もちろん答えなど出るはずもない。 いや、もしかすると意味などないのかもしれない。 前へ |次へ |
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