《MUMEI》
終章
 なぜかひどく疲れたユキナはタクシーを拾って帰宅することにした。

車内にはラジオのニュースが流れている。
動物園でライオンの赤ちゃんが産まれたという平和なニュースだ。
 聞くでもなく聞いていると「ここで臨時ニュースが入りました」と緊張したアナウンサーの声が耳に飛び込んできた。

「国民運動能力向上プロジェクトの発案者、竹山直孝氏が暗殺されたという情報が入って参りました。詳しいことはまだわかっていませんが、指名手配中の荻野ユウゴ容疑者の犯行である可能性が高いとのことです。繰り返します――」
「ユウゴが……」
ユキナは信じられない気持ちでニュースを聞いていた。

 おそらく、ユウゴはプロジェクトを止めるために関係者を一人ずつ殺すつもりなのだろう。
自分の身を危険にさらしてまで。

アナウンサーは続けて言う。
「なお、国民運動能力向上プロジェクトは来年も例年通りに行われます」
「そうなんだ……」

 ユキナは後部座席の窓から空を見上げた。
綺麗な青空が広がっている。
この空の下で、来年もまたどこかの町でプロジェクトが行われるのだろう。
 ユウゴが今のプロジェクト実行委員を全て殺したとしても、プロジェクトが終わるのかどうかわからない。
それでも彼はやるのだろう。

「ユウゴ、死なないで…」

ユキナはユウゴの無事を青空に祈った。

 ユキナを乗せたタクシーは、ゆっくりと平和な街を走り抜けて行った。

―終―

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