《MUMEI》
金曜日,雨
サアサアという、雨の音で目を覚ました。


いつの間に、眠ったんだろう…


無意識のうちに、あたしはお風呂に入り、
ご飯を食べ、いつもどおりにベッドで寝ていた。


窓の外の雨は、

あたしが流しきれなかった涙のように、


静かに、降り注いでいる。



小雨なので、あたしは傘を差して自転車をこぐ。


家を出て、学校までの中間辺りで、


ガガッ!!


という音と共に、

自転車が動かなくなった。



「…うそぉ…」



チェーンが外れている。


機械オンチで、こういうことに疎いあたしは、
チェーンを付け直すことを諦め、
近くの広場に自転車を停めて、学校まで歩いた。


―…今日は、最悪の日になりそうだ。



教室のドアを開けると、
男子がいつもどおり騒いでいるのが目に付いた。


もちろんその中に、梶野の姿はない。



「おはよ、幸」



控えめに、マキが声を掛けてくる。



「おはよー!!」



マキを心配させまいと、精一杯の笑顔で応える。



「今日、自転車のチェーン外れちゃってさあ、
途中から歩いてきた!!」

「…幸…、大丈夫…??」

「ん??ダイジョーブ!!
帰り、迎え頼むし!!」


「…じゃ、なくて…
幸、無理してる…」



マキの言葉に、涙がこみ上げてきた。


必死でこらえようと、顔をしかめる。



「…全然、だ、だいじょ―…っ…!」

「!…ゆき…!!」



―…だめだ。


全然、大丈夫じゃない。


もうやだ…


なんで、こんなに涙が出るんだろう…



「ごめん、ごめんね、幸…!!
変なこと聞いちゃって…」



あたしは、無言で首を横に振る。



「もう聞かないから…ごめんね…??」

「…あ、あたし・が…弱い…だけ、だから…!!」



やっとのことでそう言うと、

あたしは腕でごしごしと涙を拭いた。



「…ごめんね、いきなり!!」

「…ゆき…」



あたしは、笑顔を作ると、
心配そうな顔のままのマキを残し、席に着いた。


深呼吸で、気持ちを落ち着かせる。


教室の時計を見ると、8:40を指していた。


梶野、もう出発したのかな…



窓の外の雨雲を見上げた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫