《MUMEI》
空港
空港に着いたのは、
11:50だった。


自転車を停め、走り出す。


どこにいる??


梶野、かじの…



よそ見をしていたせいで、

大きな男の人にぶつかり、転んでしまった。



「うわ、」

「…っ!!ごめんなさい!!」

「大丈夫か、姉ちゃん??」

「…大丈夫です!!」



駆け寄ってきた男の人に、
そう答えて立ち上がり、また走り出す。


膝に血が滲む。


ずきずきと鈍い痛み。



でも、そんなことに構ってられない。



梶野を、探さなきゃ!!!


息が、切れる。


胸が、苦しい。


足の遅いあたしは、
人混みの中、
よろよろとしか進めない。


「…梶野…」


どこにいるの…



エスカレーターを駆け上がる。



上りきったとき、



ロビーの人混みに、




―…しゃんと伸びた、背中を見つけた。


間違いない。

あの背中は―…



「―…梶野!!!」



大きな声で、名前を呼んだ。


その背中の主が、ゆっくりと振り返る。



「…相原」



一瞬、驚いた顔。


でも、その顔はすぐに
無邪気な笑顔に変わった。




唇からのぞく八重歯。
右頬のえくぼ。

その立ち方、瞳、声、黒い髪―…





ああ。



梶野のすべてが



こんなにも





愛おしい。

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