《MUMEI》 約束ふいに、梶野の声が降ってきた。 「…相原」 「…ヒック、な、なに…??」 「…泣くのはいーけどさあ… ―…鼻水、つけんなよ??」 「―…!!」 ―…鼻水なんて、つけてない!!! あたしは、抗議しようと、顔を上げた。 「…何言って……!!!」 あたしの涙で濡れた唇に、 梶野の唇がふれる。 優しいキス。 生まれて初めての… …大好きな人とのキス。 一瞬が、何時間にも感じられた。 「…信じていーよ」 唇を離し、あたしの瞳をしっかりと見据えて、 梶野は言った。 「おれは、ずっと前から相原が好きで、 …それはこれからも変わらない。」 あたしは、しっかりと頷く。 「…信じる」 ―…例え嘘でも、騙される。 「…これ…」 梶野がポケットを探り、 何かをあたしに差し出した。 ―…しわくちゃになった、 あたしのハンカチだった。 「…ほんとは、もっと早く 返そうと思ってたんだけど―…」 申し訳なさそうに頭を掻きながら、 そう言う梶野。 「―…だめ!!」 「…へ…??」 「ちゃんと、アイロン掛けなおして!! しわくちゃじゃない!!」 「…ごめん…」 謝って、ハンカチをポケットにしまおうとする梶野。 「…だから、今度会うとき、 ―…そのとき、返して!!」 あたしは、そう言って笑った。 梶野は、もう一度あたしを引き寄せ、 今度は、強く抱き締めた。 「…必ず、返すよ。」 「…うん!!」 遠くから、梶野が乗る飛行機の 搭乗案内アナウンスが聞こえてきた。 「…もう、行かなきゃ」 そうつぶやくと、梶野はあたしから静かに離れた。 「…じゃあ、またな!!」 「うん!…また、ね!!」 梶野は手を伸ばし、 あたしの頭をくしゃっと撫でた。 手が離れ、梶野が背を向ける。 しゃんと伸びた背中。 その背中に声を掛ける。 「…いってらっしゃい!!」 振り返り、大きく手を振る梶野。 「行って来ます!!」 あたしも大きく手を振り返した。 梶野の背中が見えなくなるまで、 また、逢える日を 信じて。 前へ |次へ |
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