《MUMEI》 向こうの世界で何が…二人は校舎の裏に移動した。 「それで、向こうの世界で何があったの?」 羽田が聞くと、凜は無表情のまま「別に何も」と答えた。 「何もってことはないでしょ?さっき言ってたじゃない。今日、向こうの世界を見たかって」 凜は答えない。 ただ、まっすぐに羽田を見返している。 「教えてよ。何があったの?」 しばらくの沈黙のあと、凜は小さく息を吐いた。 「実は、昨日の夜から連続してマボロシが現れたんです」 「マボロシが……」 「はい。今までこんなことはなかったので、街は大混乱で。緊急避難命令が出されています」 「……もしかして、被害もひどいの?」 「……とても」 凜は暗い顔で頷いた。 「あ、レッカくんは?彼は大丈夫なの?」 「わかりません。連絡が取れなくて。多分、街で戦っているのだと思います」 心配そうに凜は街の方へ顔を向けた。 彼女の目には、何が映っているのだろう。 「あなたは、わたしを心配して向こうの世界を見せないようにしたいのね」 凜はゆっくりこちらを振り向いた。 「たぶん、先生はあの惨状を見たらショックを受けてしまうから」 今度は羽田が街の様子を見渡してみた。 当然ながら、いつもと変わりない。 平和で穏やかな街の風景だ。 「……今もいるの?マボロシ」 街を見つめたまま、羽田が聞くと凜は静かに頷いた。 「大きいのは消えたんですけど獣型のマボロシが複数、街で暴れてます」 「……わかった。テラを連れてくるわ」 羽田がそう言うと、凜はホッとしたように僅かに笑みを浮かべた。 「わかってくれて良かったです。テラに直接触らないように注意して返してくださいね」 「いいえ。悪いけど、返すつもりはないわ」 「え……」 凜の顔から笑みが消えた。 「昨日も言ったけど、きっとわたしたちにも出来ることがあるはずなのよ」 羽田は力を込めて言う。 それに対して凜は首を振りながら答えた。 「だから、向こうの人には見えないわたしたちに出来ることなんて……」 「向こうの人には見えなくても、マボロシには見えるんじゃない?」 「え?」 凜は怪訝な顔で聞き返してきた。 前へ |次へ |
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