《MUMEI》

外気に触れ素裸が冷えてきた。
口寂しくライターに手を伸ばすが止めるという動作を幾度となく繰り返す。

真横に眠る顔はまだ熱を帯びている。沈むようにベッドに埋まり疲労したのが見てとれた。

まだ早朝で隣人も寝静まっている。


正直、まだ足りない。



神経はまだ集中し、何かを求めていた。そういうのを全て抑制し、押し込める。
傷は深かったのだから。

最初のセックスで無茶して失神させてしまったことが引っ掛かる。

苦悶に歪み喘いで搾り取られた躯は暫くぎこちなかった。

あの後、俺が目を離した隙に帰り、自らの足でやってきたこと事態が奇跡だ。これが彼じゃなければ最中で倒れたり、数日は立ち上がれなくなるだろう。

だから、学生時代は一日数人の「友達」と会っていたし、一人しかいないときには必ず家に出向いた。

俺の性観念は自分中心であり、相手の意志は必要無かった。俺自身が心地良ければ泣いても叫んでも気にならない、止めるなんて以っての外だ、苦痛が快感になることを知っているからだった。



先刻の情事も忘れさせる柔らかな寝顔、女性に引けを取らない彼の躯は見ているだけで嗜虐心を煽った。

その中で突く辛辣な言葉も荒んだ内なる叫びも嬌声も時折琴線に触れ蝕む。

俺から引きずり出した獰猛さとそれを簡単に受け入れた肉に純粋に驚いた。

大馬鹿者だと嘲笑った。


なのに、何度も何度も触った。手が、渇いて仕方が無かった。
たった一度の凌辱が高遠光という人間を俺に刻み付けられた。

自己しか優先出来ない俺をレイは叱責した、それが普通だったのだ。
俺が腐敗しなかったのは彼女のお陰だった。彼女を失い、気が付く真実。

何もかもが遅い。


知らない場所へ住んだ。レイを忘れない為、仕事に打ち込み情欲を掻き消した。

そんなものも自慰で抑えられる程、一生を償い続ける覚悟だった。



高遠光に会うまでは。



揺ぎない贖罪が容易に崩れ落ちる 瞬間、
悍ましいまでの憤慨と劣情が交錯した。
困惑した、愛で無いにしろこんなにも誰かを強く念うことがあるなんて。
いや、愛であると気付かないふりをしていただけだったが。

今度はちゃんと間に合えただろうか?


「なに?」

視線を交わす。そろり、と頬を撫でた。

「光……って、誰が付けたの?」

「父親」

潤んだ双眸が向く。口調や態度はふてぶてしかった。

「嫌い?」

「知らない。顔も思い出せなかったし。」

「俺は感謝してるよ。光が生まれてきてくれた。」

親指の腹で唇を押す。

「名前、呼んでくれた」

「光、名前は呪文だ。互いを縛りつけて深く繋がるための。
名前を呼び合うのは誓いだ。互いに求める証だ。」

この腕の中から光が漏れないように包囲する。

「大事にする。」

鎖骨辺りに顔を埋めて来た。

「そう、名付けられればその人に所有される訳じゃない。
ただ一人授かることが出来た命が決まるだけ、それが光だ。
俺はその温かさに奮えるだけ、魂が触れ合うだけ。
金なんかじゃ、お前の価値は測れない。」

金で売り買いなんて、形式にすぎない。大事にしようこの手に抱えられるだけ。
髪一本一本まで。

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