《MUMEI》
小雨
今日は朝から、小雨が降っている。


飼い主は、珍しくおれを外へ連れ出した。


20分ほど車を走らせ、見慣れない公園へ到着。



自然に、期待が膨らんだ。



やっと、認めてもらえるようになったのか??


―…公園で、遊んでくれるのか!!


…でもなんで、こんな小雨の日に…



飼い主はおれを車から降ろし、
きつく巻いてあった首輪を解くと、



「取って来い」



と、ゴムボールを遠くへ投げた。



やっぱり、そうだ!!

これを巧くやれば、
もう殴られなくて済むかもしれない…!!



おれは、3本の足で、ひょこひょこと走った。


全速力で、ひょこひょこ、ひょこひょこ…



ゴムボールをくわえ、
車へ戻ろうとして振り返ったとき、



ヴォン!!!



荒々しいエンジン音とともに
飼い主の車が走り出した。



おれはボールをくわえたまま、慌てて後を追う。



『待ってくれよ!!』


ひょこひょこ




『ほら!ちゃんと、ボール取ってきたんだ!!』


ひょこひょこ



『待って…独りぼっちに、しないでくれ…!!』


ひょこ、ひょこ…




車は見えなくなり、





おれは、


孤独になった。





おれは、あのニンゲンが大嫌いだった。



でも、


独りは、怖い…



小雨はおれの体を濡らす。



『アマリモノ』

から

『捨てイヌ』

になったおれは


吠えることも出来ず、

ボールをくわえたまま


ただ途方に暮れ、



いらないと思っていたはずの温もりを



求めていた。

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