《MUMEI》

「…いったあ…」


そいつは、右手を押さえてうずくまった。



おれは、どうすればいいか分からず、


ただ呆然としていた。



そいつは、無言で赤い『らんどせる』を背負うと



ゆっくりと歩いて公園をあとにした。




…おれは、ニンゲンが怖いのか…



大嫌いなあの飼い主さえ、噛んだことなどなかったのに。



―…おれは、忘れかけていた。



恐怖を、痛みを。


だから、とっさのことに、


どうすればいいのか、わからなくなっていた。



おれはまだ、あの恐怖から逃れられず、



ニンゲンを信じることができないでいるのか。



…あいつも、もう会いにこないだろう。







――また、独りだ。

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