《MUMEI》
走れ!!
「…お嬢ちゃん、どいてくれないかなあ??」

「おじさんたち、野良犬を
『ほご』しないといけないからね」



男たちの呼びかけに、そいつは首を横に振るばかり。



おれは、そいつを見上げた。



右手には、包帯が巻かれている。



おれが、やった―…




「逃げて」



そいつが、つぶやいた。



「…お嬢ちゃん、その犬、お嬢ちゃんの??」

「………」

「…困ったなあ、どうしよう」



男たちが顔を見合わせる。



その時、



「ゆき!!あんた、何してんの!?」


大人の女の声。


「おかーさん!!」



男たちも一斉に、声のした方へ顔を向けた。



おれは、走り出した。



まだ、男たちも気づいていない。


そいつ、―…『ゆき』だけは、


走り出したおれに気づいて、
にっこり笑った。



走れ!!走れ、走れ…



―…遅くとも、前には進める。




「おい、逃げたぞ!」

「追え!!」




男たちの声が、遠くに聞こえる。






『ゆき』、




ありがとな―…




おれは、夕暮れの道を、ひたすら走った。

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