《MUMEI》
「こんな…、貰えないよ!」
俺は我にかえり外そうとしたが隆志に手を掴まれ妨げられた。
「困る、困るって…、どうしてこんな事すんだよー!」
腕を振るが力強く握り込まれ全く振りほどけない。
「だってしょーがねーだろ…すっげー必死なんだよ…、
もう余裕ねーんだよ…、なり振り構ってらんねーんだよ、裕斗に死ぬ程惚れちまってどうにもなんねーし、
つか、裕斗だって分かってんだろ?
俺達躰の相性めっちゃ良かったじゃんか…、お前すっげー乱れてて…、なあ、付き合お?大切にするから」
「違うよ…、無理…、隆志」
俺は緩く頭を振るのが精一杯。
――悔しい…、抱かれた時の事が勝手に体が思いだしてしまう。
確かにそうだ、あの日感情のコントロールが効かない位セックスに溺れた。
深く結合しながら腰を回され、深いところだけで力強く攻められた時…、初めて痒いところまで手の届く快楽を得た。
情けないけどあの快楽が夢にまで出てしまった事もある…。
隆志と俺の躰の相性がどうかなんて良く分からないけど、肌と肌が吸い付く様な不思議な一体感を感じたのは…事実だった。
だけど…
だけど…
隆志は俺を引き寄せたまま歩き出す。
もう呼吸が苦しい。
抵抗どころかどうしようもなく…抱かれたくなってきた…。
―――指が熱い。
このリングがどれだけ入手困難なものか…、高価なものか…。
自分の為に、何気ない会話から俺が欲しがっていた事を覚えて貰っていた嬉しさ…。
忙しさの中俺に、俺の為にって思ったら…。
どうしよう。もしかしたら…、俺…
―――隆志が…好きなのかも…知れない?
「隆志…」
隆志は…立ち止まる。
俺は隆志を見上げる。
隆志もじっと俺を見つめてきた。
「俺にキスして…」
俺は眼を閉じ、隆志の両肩に手を置いた。
すると優しく背中と腰を抱かれ…
――もう一度キスすれば、自分の本当の気持ちが分かる気がして…
俺は顔を少しだけ上げて…、温かな気配を感じ、そして柔らかな唇がとても優しく重なってきた。
「どーゆう事だよ!!」
「…!!」
突然の聞いた事の有る声。
突然の事で抱き合ったまま唇だけを離し、目に映ったのは…
「加藤……」
隆志は静かに言った。
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