《MUMEI》
もうふ
ゆっくりと目を開けた。


いつの間にか、疲れ果てて眠ってしまったようだ。


…ここは―…??



おれは、捕まったのか…??


辺りを見回す。


白で統一された清潔感のある天井と壁。


それに―…


暖かく、柔らかな毛布。


おれが状況を把握できずにいると、



「ぅお!!起きた起きた!!!」



そう叫びながら、男の子どもが駆け寄ってきた。



「お前、家の前で倒れてたんだぞ!!
…よかったな、助かって!!」



おれに向かってそう言うと、
そいつはきれいな八重歯を見せて笑った。



「トモ!!イタズラしちゃだめよ??」



奥から、大人の女がぱたぱたと部屋に入ってきた。



「してないよ!!
挨拶してただけー!!」



『トモ』と呼ばれた子どもは、
頬をぷうっと膨らませて言った。



「そう、
じゃあお母さんちょっと出かけるから、お留守番よろしくね」

「はあーい」



そんなやり取りの後、『おかあさん』は出かけていった。



ここには今、おれと『トモ』しかいないようだ。



「なあ、お前、足どーしたんだ??」



『トモ』が、不思議そうに訊ねてくる。



―…知るか。
生まれたときから、こうなんだよ。



「お前、名前ないのか??
…よし!!おれが付けてやろう」



本当に、ニンゲンは勝手な生きもんだ。


―…好きにしろ。



「…う〜ん…模様が点々だからあ…」



嫌な予感。

…まさか、な…



「―…うん!!ポチだ!!…いいだろ??ポチ!!」



そのまさかだった。

『ゆき』とネーミングセンス一緒かよ…



…ま、どーでもいいか。



おれは、家の中を探索しようと、立ちあがった。


―…イヌの、本能ってやつ??


おれが歩き出すと、



「…ポチ…お前…」



『トモ』が驚いた顔でこっちを見ているのに気が付いた。



…そうだよな。こんな変な歩き方―…






「…お前…カッコいいな!!!」





―…は??



見ると、『トモ』はきらきらした瞳で
おれの足を眺めている。



…『カッコいい』…??



「すげーよ、ポチ!!
そんけーする!!」



…そんけー…尊敬か??



―…おれは、なんだかとてもくすぐったい気持ちになった。




暖かい毛布も、



『カッコいい』なんてほめ言葉も。






―…おれには全部、初めてのものだったから。

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