《MUMEI》
隆志視点
加藤を見た瞬間、つい勢いで加藤に手をつけた事に、俺は酷く後悔した。








躰の欲求を充たしたかっただけの、精液を吐いただけの






ただの…セックス。





遊びにも満たない、





快楽のみの行動…。







正直、多くを語らず走り去ってくれてほっとした。






「ね、隆志、追いかけて」




突然裕斗は力強く俺の腕を振り払った。





「は?裕斗…?」




「だって隆志、加藤の事無理矢理抱いただろ!」



「マジかよ…。知ってたの…かよ…」





裕斗と加藤が最近仲が良いのは知っていた。


でもまさかこんなに早く…つか加藤が話してたなんて。



「裕斗、ゴメン…」




裕斗はうつ向き、頭を横に緩く振った。



「加藤にも裕斗にも…悪い事した、ゴメン…」






――違う。






加藤には、僅かに罪悪感は有るもののだからと言って対した感情はない。






腕の中の可愛い反応のせいでほだされた部分もあったけど…、それは誰にだって有ることじゃないか。





俺は裕斗に嫌われたくない。






「信じて、俺は裕斗だけが好きだよ、二度と他の奴と寝ないから、許して」




「違う、違うよ、違う……」





裕斗は顔を上げ俺を見た。





涙が頬を伝い、そして裕斗は握り込まれた手でそれをぐっと拭った。




――その指に光るリング…。





…絶対に外して欲しくない……。




「俺はお前しか考えられない…、
俺がまたバカな事しねー様に俺の傍に居てよ、一人にすんなよ…、すっげー不安になって…苦しいんだ…」





俺は裕斗を引き寄せ、きつく抱きしめた。





俺より細い躰はスッポリと俺の中に収まる。






裕斗から僅かに香るブルガリ。





最近俺も同じモノに変えた。




少しでも近くに感じたくて、本当は自分で使うには照れくさい位軽い香りだったけど…。





「裕斗、俺の事も助けて…」





耳元に甘く囁くと、腕の中の裕斗の躰が僅かに震えた。





「大好きだよ」





「愛してる…」





「俺の傍にいて欲しい」






すると裕斗はたどたどしく…




ゆっくりと…





俺の背中に腕を回してきた。





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