《MUMEI》
小さな肩
「ぅあっつー…」


夕方になっても、暑さは消えない。


買ったアイスが溶けないように、少し急ぐ。



と、



帰る途中にある橋の手すりに、
一人の女の子が寄りかかっているのを見つけた。



―…あの娘、は―…


あのお姫様じゃねーか??


こんなとこで、何してんだろ…


自転車にブレーキをかけて、首をかしげる。


すると、
橋の反対側から、その娘の元に、
一人の男が駆け寄ってきた。



ああ。

なんだ、彼氏か…


オレはため息をつきながら、俯く。



――そーだよな。
あんな可愛けりゃ、彼氏の1人や2人…




――バシィッ!!!




…ん??

何の音―…


顔を上げると、
頬を押さえて立ちすくむ男と、
その場を大股で去って行く
女の子の姿が目に入った。



…しゅ、修羅場…!?


目を離せずにいると、男と目があってしまい、
気まずい雰囲気になったので、
オレはそそくさとその場を後にした。



自転車をこぎながら、
ちらりとあの娘の後ろ姿に目をやる。



大股なその歩き方は、
華奢な体に全く釣り合わない。





――家に帰って、
カナにさんざん文句を言われてる間も、

その後ろ姿が脳裏に焼きついて、
離れなかった。





…だって、その小さな肩は震えていて




まるで、泣いてるように見えたから。

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