《MUMEI》
泉ノ森
泉の森は街外れの高台にある。
普段は人はあまり寄り付かないが、桜の咲く季節になると、花見に街の人々がたくさん集まってくる。
ちなみに今は秋。完全に季節外れである。

泉の森の入り口辺りに来て、紬は突然足を止めた。
「紬?」
輝が聞くと紬は振り返って、
「疲れたわ」
と言った。
「もー紬!自分が行きたいって言ったんでしょ!?」
「せめて泉の広場まで行きたかったわ」
「なら…」
「連れてきなさい。」
輝の言葉を紬が遮った。
「飛べと?」
紬は面倒臭そうに頷いた。
輝は深く溜め息をついてから、紬を抱えた。
「ちょっと!それじゃヤダ!あたしお姫様なんですけど!」
輝は言ってる意味を理解し、再び溜め息をついてから、紬をお姫様抱っこの体勢にした。
「飛ぶよ?」
輝は紬の顔を覗いて聞いた。
「何時でもOK!!」
紬は親指を立てた。
輝は笑顔で頷き、地面を強く蹴って、空高くへと舞った。


―ピピッ ガッ
「王様?私です。2人は泉へ向かってます。…はい。このまま行けば…羽は消滅します。」


「あっ!あそこだよ輝!早く下りて!」
紬は輝の腕の中で前後左右に体を動かしながら、下の方を指差した。
「わわっ!揺れるな!危ないから!」
輝は体勢を直しながら、ゆっくりと土に足をつけ、紬を下ろした。
紬は、岩の間から水が溢れているところまで行き、水をすくって輝の顔にかけた。
―バシャ
「うわっ冷てぇー!!」
輝は服で顔の水を拭いた。再び正面から水が迫ってくる。
輝は咄嗟に体を回転させた。
再びバシャっと鳴って水は服と羽に染み込んだ。


輝の羽がハラリと堕ちた。

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