《MUMEI》
背中
・
体液で濡れた冷たいシーツに不快さを感じながら、しかし身じろぐ事も億劫…。
俺に背中を向けベッドに並ぶ隆志を俺は黙って、ただ見つめている。
――激しい情事から何時間経過しただろうか?
喉が渇いて、躰が痛くてとても眠れない…。
そして何よりも心が
…痛い……。
今日は秀幸の誕生日なのに…
もう俺には彼に会う資格はない……。
自分が何をしたかったのか…、誰が好きなのかとか何も分からなくなった。
ただ、目の前に映る、薄明かりの中にある隆志の背中…。
大きな引き締まった背中…、肩にある大きめの黶が何故か気になって仕方がない。
俺は、無意識に僅かな溜め息を漏らした後、中指でそっと そこに触れてみた。
「寝つけ…ないのか?」
隆志の低い、静かな声。
俺はとっさに指を黶から離し、緩く指を握った。
「…だよな」
隆志は上体を起こし、ベッドヘッドに寄りかかった。
カチリとジッポをつける音がして、煙草の匂いが立ち込めてきた。
隆志の無造作に投げ出された脚の先に見えるカーテン。
そこの少しの隙間から外の街灯の灯りが差し、その僅かな明るさのみなのに、静かな室内を鮮明に映し出している。
視界の風景がモノクロの背中から、長く整いながらも男らしい脚に変わり
何故だか無性に切なくて…
また涙が溢れてきた。
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