《MUMEI》
実感が沸かない
「いや、確信はないんだけど。テラにはわたしが見えるわけでしょ?昨日、津山さん言ってたじゃない。テラってマボロシの一種かもしれないって」

「それも確信はありませんけど」

「まあ、そうだけど。けど、もしそうならマボロシにだってわたしたちのことが見えてるかもしれない」

凜は羽田が言っていることを理解できないというように僅かに眉間に皺を寄せている。

「だから、もしマボロシにわたしたちが見えてるんだとしたら……」

「……したら?」

「その、何かできるかも」

「例えば?」

「……討伐隊が攻撃しやすいように気を引いたりとか、人がいない方向へ誘導したりとか」

「……本気で言ってますか?」

凜は冷めた表情で羽田を見つめている。

「マボロシにわたしたちが見えてるとは到底思えません。実際、わたしが近くにいても何の反応もなかったですし」

淡々とした口調で凜は言う。

「そうなんだ……。けど、もしかしたらってことも」

「………先生。もしかしてマボロシを近くで見たいんですか?」

「ううん、違う。そうじゃないけど……。けど、やっぱり試してみる価値はあると思うわ」

「……見たいんですね」

表情を変えずに凜は呟いた。

実際、凜の言う通りだった。
向こうの世界が大変なことになっている。
そんなことを話だけで聞かされても、実感が沸かない。
なにせ向こうの世界の存在を知ってからまだ数日なのだ。
実感が沸くわけもない。

「…まあ、その目で見ればわかるはずですよ。わたしたちにできることは何もないって。納得したらテラ、返してくださいね。それで、今から行くつもりですか?」

「そうよ」

「授業は?」

言われて羽田は気がついた。
そういえば授業があったのだ。
さすがに今から休むわけにもいかないだろう。

「……放課後、行きましょう」

仕方なくため息をつきながら羽田は言った。

「わかりました」

凜はそう言うと軽く頭を下げて教室へと戻っていった。

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