《MUMEI》
私物化する
人差し指の指輪は年期が入っていて、使い古されていた。
くすんでいる、今度磨いてやろう。

「そんなに嬉しい?」

「嬉しい。」

国雄の胸元に指輪が嵌まった指を見せる。


「………………素直だ。」

誰もが見惚れた笑顔を向けられ鼓動が高鳴り額が接するほどの距離でキスされるかとまで勘繰ってしまう。

目を閉じて待ってみる。

小さな含み笑いと共に俺の人差し指は彼の手に捕まえられて誘導されていった。

胸から腹筋、そして深い茂み……

……………………勃ってきてる。

「……絶倫。」

つい、毒づいてしまう。それもまあ愛嬌ということで。

「知ってるじゃない。」

そうだ、こんなものじゃない、気持ちいいのか痛いのか分からないくらい良かった。
前髪を分けてくれる。

「……口でなら。嫌?」

千歳のフェラ見られたんだった。
他のものを咥えていると知っていたら嫌かもしれない。

「嫌じゃない。俺を喜ばせてくれ。」

大きな手が俺の顎に掛かり国雄の下半身が上がってきた。

「……うん」

受けれるようにして舌を垂らす。まだ余力を残したそれは発散する機会を窺っている。

「ごめんなぁ」

溜め息を一つついて舌先に付けてきた。


謝らないで……
俺は、こうして二人で居られるだけで幸せ。

……とか言葉では伝えにくいから口で返す。


「……上手いね、」

褒められた。
まだ身体が動かないから口だけでも楽しんでもらいたかった。
国雄を喜ばすためならどんなこともしたい。










身体が軋む。
頬が冷たい。
頭は半乾きでいつの間にか俺は服を着ている。

低めの天井に硬めのベッド、シーツは剥がされていてきちんと毛布が掛かってあった。

ふらつきながら中腰で襖を開ける。

国雄の横顔があった。
放たれた野生の獅子のような物々しさを纏いシャツを着込んでいく。
高名な彫刻にも間違える凛々しい立ち姿だ。

「おはよう、ほら水」

三番目の釦で指を止め、湯飲みに入ってる氷が溶けて冷えた水を渡された。

低いテーブルの前に座る。
「よく自力で立ち上がったな、一応は一回挿れて終わるつもりだったんだけど気を失わせたね。
……大事にするって言いながら何してるんだか。」

思い詰めた国雄が台所からお茶漬けを運んできた。

「俺の体力見くびらないで、さっきへばったけど最初みたいに乱暴だっていいんだから。満足してもらえない方がずっと辛い。
俺は縛られても噛まれても大丈夫だから。

それに、こういうアフターケアの手厚さはただのお節介には思えないけど。」

お腹を空かせているのも知って当たり前のような対応の早さ。

「冷める前に食べな」

促され箸を持つ。
目の前のスーツ仕様な国雄に脈が早打ちして食べるものの味も曖昧だ。

「これから仕事なの?」

「そう」

飯台拭きを始める。
お茶漬けを啜る音、飯台を拭く音が響く。


「寂しい?」

肘をついて顔を覗き込んでくる。

「そりゃあ、あれだけヤれば名残惜しいよ。」

あまり顔を近付けられるとまた体の芯が熱を持ってしまう。

「寂しくなったら電話かメール頂戴。」

紙の切れ端に家電からびっしり書かれてある。

「不思議、ずっと今まで連絡手段も無かったのに。
鍵に電話番号、国雄との絆が深くなる。」

「連絡という手段で互いに縛るんだよ。光も家の鍵と電話番号な?」

「次会うまでに合い鍵作っておく。」

恋人っぽい会話。……とか考えたりして。

「いつから一人暮らししているんだ?」

「中学くらいかな、母親に千歳との関係バレて中学は寮で高校からは部屋借りて今のマンションに。」

「母親の話は聞いた。父親とは暮らさないんだ?」

鋭く切り込まれた。

「……父さんはどこにいるのかも知らない。多分愛人の家らしいけど。」

「家族で動物園とか水族館とかは?」

「行ってないね。」

「じゃあ俺と行く?免許無いから電車とかバスになるけど。」

そういうのをさらっと言ってしまえるからモテるのかな。
そういえば、帰りはいつも送ってもらっていた。

「……母さんのトコ行きたい。
ずっと上手く話せなかったから。今ならちゃんと話し合えそうだし。
国雄は?」

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