《MUMEI》

「レイのトコ行かない?」

「……え」

あ、早まったか?瞳孔を大きくして不意を突かれた面持ちだ。
かなり驚かせてしまった。

「ごめん嫌ならいいんだ。

昔の女の墓参りなんて嫌だよな。」

「行く。いつにする?空いてる日探すから」

しゃんと姿勢を正して光は言い放つ。

「……いつでもいいから。午前中に終わらせてすぐ帰るようにしよう。
墓参り言っても実は家族と絶縁してるから、実家付近は寄れないんだ。
だからレイの眠る墓場には行けない。実家から離れた場所にレイが忘れていった櫛を埋めたんだ。
そこを俺の中でレイを埋葬したことにしている。
結局埋めた一度きりしか行けてないけど。」

感傷的になってしまうのは光がいるからだろうか。

「うん、行きたい。」

光が手を重ねてきた。

「……俺も行って是非見てみたいな光のお母さん。
きっと光に似て綺麗だろうね。」

「口説くな」

重ねた手を咄嗟に離し顔を赤らめて、可愛らしい。

「今ならレイに胸張って生きてるって言える。」

愛おしい光を紹介出来る。

「遺品何処に埋めたの?」

「昔遊んでた秘密基地。」

「楽しそう。田舎?」

目を輝かせた。

「そう、でも今は大分変わったかな。
五年以上帰ってないからなあ。
なにせ学校辞めてからは昔のお友達が実家に殺到したらしくて……幻滅?」

過去の自分には苦笑いしか出来ない。
光はにじり寄って引き攣ったままの口の端に唇を付けてきた。

「……ろくでなし。」

やんわりとした笑顔と同じトーンで相応しい罵倒を戴いた。

「そうだ、初恋相手ってどんなやつ?
俺よりカッコイイ?」

ささやかな反撃をする。

「別次元だよ、比べるなんて以っての外。」

「そこは嘘でも貴方だけよって言わないと」

耳元で囁く。
別次元と言わせる程に恰好良いやつなのか。ちょっと嫉妬だ。

「褒めたら付け上がるから言わない。」

「なーまいき。」

耳の裏を嘗めてやる。

「……ッ!」

与えた刺激には素直に体を捩らせる姿もなんだか微笑ましいとさえ感じる。

「ばかぁ…………」

抜けたような声で頭を俺の顎と鎖骨の間辺りにもたせ掛けてきた。
からかい概がある。

「仕事じゃなかったらもう一回抜きたかったな。」

「……絶え間無く精力的な国雄でも好きだよ」

「奇遇だね、俺も隠れドMな光が大好きみたいだ」

互いの含み笑いを確認した後、どちらからともなくキスした。

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