貴方の中の小悪魔
を知る神秘の占い

《MUMEI》
――獅子奮迅――
 一九〇センチにも及ぶ長身のアウレス男爵が振りかざした巨大な戦斧は、ゴブリンを頭から一刀両断にし、鬼神如く上げる彼の雄叫びは大地を揺るがした。
「赤子の手を捻るようなものだ。かかってこい、豚共!」
 豚というのは、彼がゴブリンの見た目から想像したものであったが、的外れではなかった。小太りの大人の頭を、醜悪な豚の形相に変えたようなものだったからだ。
 全長二メートルをゆうに超える戦斧が振り回され、彼を囲んだゴブリンは薙ぎ倒された。
「閣下!」
 愛馬に幾度も鞭を打ちつけるレイシスは、遂にアウレス男爵のもとへ辿り着いた。
「いささか窮屈な愚馬ではありますが、御同乗願います」
 息の上がってしまった愛馬から飛び降りた彼の言葉は、男爵にとって神の一言にも勝る救いだった。
「ありがたい」
 勇者二人を乗せた白馬は、一目散に駆け出す。
「ところで、救援軍の指揮官は誰か?」
「はっ。傭兵アルケインでございます」
「……折って褒美を遣わす、とお伝え願いたい」 戦斧を肩に担ぎ、溜め息混じりにアウレス男爵はいった。それが傭兵に向けられたものなのか否かは、男爵自身にも判断しがたい。
「承知致しました」
 愛馬の胴体の鞘に差し込まれていたランスを引き抜き構えると、愛馬に鞭打って戦場を疾駆する。
 ゴブリン群に著しく陣の崩れた部分に突進すると、やはりそれは突破口に変わる。その直後に、突破口の向かい側で歓声が上がった。
「味方です!」
 歩兵隊を率いるアルケインが先陣をきり、ゴブリン群の突破口が更に押し広げられる。
「レイシス、よくやった。お前の功績を称え、追加報酬の一部を当てよう。疲れたろうから、もう退いても構わん」
 レイシスは「失礼致します」といってアウレス男爵を降ろし、足早に立ち去った。
 しばらくして、傭兵隊だけでなく、騎士団の援護も重なった。ゴブリンの群れの右翼は総崩れとなった。
「男爵閣下、この馬を」 感謝の一言を述べたアウレス男爵は、アルケインの差し出した馬に飛び乗る。
「これ以上の戦闘は無理だ。退却しようか」
「ええ、そろそろ潮時ですな」
 アルケインは全隊に号令を発し、羽織ったマントを翻した。

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