《MUMEI》

チッチッチッチッ



あたしの腕にはめてる時計と、部屋の時計の音は微妙に噛み合わないまま、鳴り続けている。






すでにあれから45分が経過してる。
さっきから、お母さんが
遅刻する遅刻するうるさい。


でも、
それは事実で、
内心焦っていた。
10分待てば
あきらめて先に行くと思ってたのに、
佑はずっと待ってる。





でも、




あたしはどういう表情で会いに行けばいいの?









今なにを話せばいいの?










今更、
言い訳なんて、
聞きたくないよ。













でも、
もうずっと
45分ずっと
同じ場所で、
二週間前と同じ場所で









佑………








あたしは乱暴に部屋を飛び出して、
階段を下りた。
「あんた遅刻だよー?」
お母さんが怒った声で怒鳴る。


あたしは無視して、


乱暴に家のドアをあけた。

佑は
ちゃんと
いつもの場所で
静かに待っていた。


「な…、
なにやってんの、佑!
遅れちゃうでしょ!」

あたしは少し怒ったような声で少し大きな声で言った。


「…。なあ、亜衣…」



「大丈夫。」
「え…?」



「あたしは、
大丈夫だから…。
佑がいなくても、

べつに大丈夫だから。」












「………。」








あたしは
自分でいきなりなにを言い出したのか、
自分でもわかんなくなっていた。





「ちげえんだよ。だから、俺はサヤとは付き合ってないんだ」












「え…?」







「だから…」
「ちょっと待ってよ。じゃあ彼女じゃないのに、佑はあんなことしたの?あんなことゆったの?」

「……亜衣、」
困った顔をして、なにか言いたそうな佑











「………ごめんな…」





佑は
小さく呟いた。




あたしは
意味がわかんなかった。
なんで謝ってるの?
なんで………
「なんで謝るの?
うちらはただの幼なじみでしょっ。お互いがなにしてようったって、関係ないじゃない。」











「ごめん…」









辛い。辛いよ。
謝られてる。
あたしは、佑に謝られてる。佑はやっぱり、なにかの間違えじゃなくて、しようと思ってしたんだ。
それを
あたしに謝ってるんだ。
なんで?


あたしはただの幼なじみなのに。
あたしは佑のこと、好きなんかじゃないのに!!!!!

なに、
コイツ。
まぢで意味わかんない。







「そんなこと、伝えにずっと待ってたわけ?バカにも程があるんじゃな……………」


言いかけて、
あたしは後悔した。













佑の手は、赤く腫れていた。
いかにも、
氷のように冷たそうだった。


『…冷たいじゃん…』
『寂しい顔、すんな!』










あたしは
たくさん
佑に、
励ましてもらってたんだなあ…






佑がいなきゃ……
今頃あたしは…………





「……………
………なんで、こんなに冷たくなるまで…」

あたしはそっと、佑の手に触れた。


わかってはいたが
わかってはいたが、
佑の手は氷のように冷えていた。
赤く腫れていた。
でも細くて長い指。
でもすこしごつごつした、男っぽい手………

「さわんな」






「え?」




あたしは思わず佑を見つめた。








こんな表情みたことなかった。
こんな寂しい表情みたことなかった。







「俺にはさわんな。


……汚れてんだよ…。」








返す言葉がなかった。
佑、なんでそんな辛そうにしてるの?
ねえ、
SEXは好きでやってたんでしょ?
あーゆーことは、好きでやったんでしょ?








ねえ、
佑、










なにがあったの…?

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