《MUMEI》

湿布を貼り替えた。

足首がひんやりとして落ち着いていく。



素早く着替え化粧してもらう。
眼鏡をかけ直し視界を広げ、列に入ると再び緊張してきた。

「ああ、あまり顔いじらなくても見栄えする。」

女子の一人に顎を持ち上げられた。

「肌キメ細かいよね」

「色白」

「唇ぷるぷる」

「眼鏡似合いすぎ。」




「……レズみたい。」



誰だ今言ったやつ!
振り向いたら七生だった。
「内館君ゆーうしょー!」

「おめでとう」

歓声を浴びながら自信満々に帰って来た。
七生、カラオケ大会優勝したんだ……。

「ふはは実力だよ!じ つ りょ く!」

むかつく言い方だなあ。

勝てているから毒づくことも出来ない。

いや、褒めて頭撫でてやったらきっと喜ぶだろうね。

褒めたい。
きっと屈託なく笑って抱きしめてくれるんだろうな。
『優勝おめでとう、足庇ってくれてありがとう、この間はごめん…………俺のこと愛してくれる?』

沢山の言葉が口を開ければ漏れそうだ。




……いけない。平常心、今日くらいは七生以外のこと考えるんだから!



「俺達次の次でしょ?」

南に聞いてみる。

「うん、二年の次だよ」

ああ、ドキドキする。


「なあ、最後さー俺もバク転したらどうかな?」

ラストで運動神経がいいグループがバク転するところに七生も参加したいと言い出した。

ダメダメダメダメ!
腕まだ完治してないんだから!

「いいんでない?」

「ちゃんと合わせろよ?」

口々に賛成意見が飛び交う。

やだ、止めてって……

「準決勝はそれ用に少しアレンジしてあるから最後の決勝に取っておけよ。
それまでは大人しく、団体に合わせるっていうことを学べ。」

乙矢あぁ!有り難う、僕等のリーダーだ!
ちゃんと怒れるのはお前だけだ。

俺の言うことなんて半分聞けばいい方だし。

「木下顔に出し過ぎだよ。」

南にバレていたらしい。

「全然、七生なんか気にしてないから。
……あう、七生……なんか……」

名前出してしまった。
南は誰とかは言ってないのに、深みに自分から嵌まりにいったようなものだ。

「やばー、美作と内館に睨まれた。」

俺を盾に南が隠れた、七生と乙矢は俺から視線をそらす。
ちょっと嫌な感じだ。

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