《MUMEI》 散歩『トモ』はおれに、 首輪もリードもつけようとしなかった。 並んで歩き出す。 『ニンゲン』と散歩なんて、 初めてだ。 しかも、『トモ』は おれを繋ごうとはしない。 おれに合わせて歩いてくれている。 外にある色んなものの美しさや楽しさを、 おれは、忘れていた。 でも、『トモ』と並んで歩いている間、 おれは確かに、 外を『楽しい』と感じた。 …なあ、『トモ』。 お前は、 奇妙な歩き方と、 吠え方しか出来ない このおれの『飼い主』になってくれるのか…?? そんな想いが頭をよぎったとき。 「あっれー??カジノじゃん!!」 がらがら声が上から降ってきた。 『カジノ』……『トモ』のことか…?? 「…桑田くん」 『トモ』が立ち止まり、声の主に顔を向ける。 「…なに??オマエも散歩中!? 俺もなんだ〜♪」 それにしても意地悪そうな声だな… そう思って顔を上げると、 太ったでかい少年と、 そいつの手に握られた紐に繋がれた でかい綺麗なイヌが目に入った。 「そーだよ。綺麗な犬だね」 『トモ』が微笑んで答える。 おれは、自分の体を眺める。 …やっぱり、 綺麗なイヌじゃなきゃ、ダメか… 「…だろ〜!?高かったけど、 ねだったら買ってもらえたんだぜ!!! …オマエのは―…」 そう言って、『クワタクン』というヤツは おれをしげしげと眺めた。 「うわ、コイツ足3本しかねえじゃん!! 変なの〜!!!…これ、オマエのペット!!?」 『クワタクン』の声に、おれは俯く。 そうだ。 おれには、『ペット』として 認めてもらえるような価値はない。 「…こいつは…ペットなんかじゃない!!!」 そうわかっていても、 『トモ』のこのひと言は、正直辛かった。 「…だよな〜!!足3本とか、犬じゃねー…」 そう言って笑う『クワタクン』の声。 おれの心を引き裂こうとするその声を遮ったのは、 『トモ』だった。 「…ポチは、おれの友達だ」 ―…トモ…ダチ…?? 前へ |次へ |
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