《MUMEI》
バレエまたはスター参
「ほんとは、僕、春君に会うことなんてないと、思っていたんです。」

そういいながら、白いスーツの人はカレーライスのスプーンで、
サラダのトマトを頑張って掬おうとしていた。

「お箸使いますか?」
リボンちゃんが気を遣って、自分の家にいるみたいに、
キッチンの隅にある棚の中をごそごそして、箸を差し出す。

「ありがとう。お嬢さん。」

にこやかに微笑み、
箸をつかうその人の箸の繰り方は、奇妙な持ち方のためか、あまりスマートではない。

「ね。その呼び方、わたし少し抵抗あるんですけど。
ちゃんとわたしの名前を、あなたに教えようにも、自分の名前を名乗らない人には、私も名乗れないわよね?」

敬語なのか、タメ口なのかよくわからない日本語を遣うかんじが、彼女らしい。

「…僕ですか?僕の名前は、仕事中に使用するものしか、今は、勤務中のため公表できないのですが…それでよかったら。」
リボンちゃんは驚いた様子で、
「仕事で、春君のこと捜すなんて、アメリカの映画みたい」
と、また彼女らしい適当なことを言った。

そして、僕も驚いた。

「そんな企業規模で、僕になんの用なんでしょうか…」
         

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