《MUMEI》 登場ケンカなんてしたことない。我慢しか知らない。小さい頃から我慢ばかりしてきたから。 「見ぃ―ちゃった♪」 突然大きな声がして、全員の動きが止まる。 僕には逆光で顔が見えなかった。 「ヤベェ……吾妻瑞季だ…」 小さな呟きが耳に届いた。 「あ――…今更逃げたって全員顔覚えたから。もちろん梅田高校にくるくらいだから、手ェ出してなくても一緒にいた人達も同罪ってわかるよね?」 その声の調子は軽いものだけど、余計に恐怖を生む。こんないじめの現場を押さえるなんて、すごい勇気がある人……。 「ねぇ泉結季くん。この人達どうして欲しい?」 人事のように考えてたら、いきなり話を振られて驚いた。 「別にどうでもいいです。この人達に仕返しを考える脳みそを使うことが勿体ないですから…」 「ふーん…。だってさ。早く逃げれば?泉くんに感謝しなよ」 僕を殴ってたヤツらも、それを見ていた女の子達も慌てて走って行ってしまった。 「………あ、どうもありがとうございます」 差し出された手を取って立ち上がる。制服についた土を払う。あーあ。高いのに……。 「しっかし君もわからないな。なんで許した?」 「許してなんかいません。ただどうでもいいだけなんで」 「冷めてるね」 「…本当は僕が感謝したいくらいです。あなたに…吾妻瑞季さんに会えたから……」 前へ |次へ |
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