《MUMEI》
登場
ケンカなんてしたことない。我慢しか知らない。小さい頃から我慢ばかりしてきたから。

「見ぃ―ちゃった♪」

突然大きな声がして、全員の動きが止まる。
僕には逆光で顔が見えなかった。

「ヤベェ……吾妻瑞季だ…」

小さな呟きが耳に届いた。

「あ――…今更逃げたって全員顔覚えたから。もちろん梅田高校にくるくらいだから、手ェ出してなくても一緒にいた人達も同罪ってわかるよね?」

その声の調子は軽いものだけど、余計に恐怖を生む。こんないじめの現場を押さえるなんて、すごい勇気がある人……。

「ねぇ泉結季くん。この人達どうして欲しい?」

人事のように考えてたら、いきなり話を振られて驚いた。

「別にどうでもいいです。この人達に仕返しを考える脳みそを使うことが勿体ないですから…」

「ふーん…。だってさ。早く逃げれば?泉くんに感謝しなよ」

僕を殴ってたヤツらも、それを見ていた女の子達も慌てて走って行ってしまった。

「………あ、どうもありがとうございます」

差し出された手を取って立ち上がる。制服についた土を払う。あーあ。高いのに……。

「しっかし君もわからないな。なんで許した?」

「許してなんかいません。ただどうでもいいだけなんで」

「冷めてるね」

「…本当は僕が感謝したいくらいです。あなたに…吾妻瑞季さんに会えたから……」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫