《MUMEI》
初めて
朝かなり早く眼が覚めた。
カーテンの隙間から外を見るとまだ薄暗い。
むくりと上体を起こし壁掛けの時計を見ると、やっと6時をまわったばかりだった。
「もう…起きてたの?」
キッチンカウンターの椅子に座る隆志を見つけ俺は言った。
「あ…、もう朝か…、おは…よう…」
隆志は俺の方を向いて静かに言った。
俺はベッドから降り、髪を無造作に掻き上げながら隆志に近づいて行く。
「コーヒー良い匂い、俺にも頂戴」
「あ…、あ、うん…」
隆志は立ち上がりキッチンに回った。
俺は隆志が座っていた椅子に座りカウンターに肘をついた。
対面キッチンになっていて、隆志は俺の眼の前で手動でゴリゴリと豆を引き出す。
「やっぱ手動って味違うの?俺コーヒーの善し悪し分かんないからなあ」
「んー、どーなんだろうな…、簡単に入れらんない分美味く感じるだけなんかもしんねーけど…香りは違う気がするな」
「ふーん…」
俺は何だか肌寒くて立ち上がる。
「先着替えよ」
床にたたまれ置かれた服をソファに上げ、俺は借り物のシャツを脱ぎだす。
「隆志は何時間寝たの?」
「あー…寝らんなくて…起きてた…」
「マジ?…そっか…」
俺はジーンズを履き、シャツに腕を通す。
するとコーヒーメーカーがコポコポと音を立て出し、隆志は俺の方に来た。
そしてソファにどかっと座り、両手の指を髪に差し込み、うつむいた。
「な、裕斗…、ゴメン」
「は?良いよもう…」
俺はライターと煙草を掴み、火をつけた。
「俺…、取り返しのつかねーこと…したかも…」
「はー…、だからもう良いって、俺も悪いんだし」
俺は煙を一気に吐き出す。
起きがけが旨いなんてすっかり煙草にはまっちゃったかな…。
「…違うんだよ、これ…見て…」
隆志はテーブルに置いてある俺の携帯を掴み、俺に渡して来た。
「は?うん…」
俺は訳もわからず携帯を受け取った。
「何…?サイト?」
「…メール…、送信の…方」
隆志は頭を抱えたまま静かに言う。
「……!!は……あ………これ……なに…」
「ゴメン…」
バチン!!
「テメー!ふざけんな!!」
俺は…生まれ初めて…切れた。
そして…人を殴った。
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