《MUMEI》

「酷い!バカ!普通すっかよ!
…これから撮影あんだぞ、どうしてくれんだよー!…最低…バカ…」





拳が痛みを超えて麻痺してきても叩くのを止められない。




隆志はされるがままに俺に胸を叩かれている。




「ヒクッ…ばかー、痛いとか言えよー、痛くしてんのにー、全然きかねーのかよ…最低だよ、俺が最低…」





俺はとてもソファに座っていられなくてフローリングにへたり込んだ。





ショックもそうだけどマジで今日どんな面下げて会えば良いのか分からない。






――何となく別れんのは漠然と決めてたけど…、
だからってずるいけど隆志との事は秀幸には伏せているつもりだった。





だって惚れた相手には良い印象もたれてたいもん…。




それに言わなきゃ分からない事はべつにすっとばす位、許される事だって当たり前の様に…狡く考えていた…。




「俺が、狡いから…、だからだ…、性格超最悪だから…」





「違う、裕斗は良い子だよ…、俺もつい間がさして…本当に…最低な事したって…俺…
マジでゴメンな…」





隆志もソファから降り、俺の二の腕を両手で掴んできた。

「ゴメン…」











俺は漸く携帯を見ながら…消去する。





「…隆志の携帯も貸して、消させて…」





隆志はケツポケットから携帯を抜き俺に差し出してきた。




「もう全部消した…、確かめて…」




こんな事されるなんて想像もつかなかった…





隆志は俺なんかより大人で優しくて気が利いていて…





なのに加藤の事無理打ちしたり、俺にも…

つか、きっと…隆志はそんな事平気で出来る奴じゃない…。


俺は隆志に携帯を返した。



「俺…もしかして…隆志の事…、
追い詰めてた?」





俺はやっと顔を上げ…隆志の顔を見上げる。




隆志は俺をじっと…真剣な表情で…

「こんなに…誰かに執着したのは生まれて初めてかも知れない…

マジで気が狂いそう…、いや…、

裕斗が好き過ぎて…
俺はもう…気が狂った…」




「たか…し……」









――朝日が昇ってきて…、隆志の端正な顔を照らす。


「苦しいよ…、俺も…自分が…分からない」





隆志は薄く笑い…





目尻から涙が落ちた。


その涙があんまりにも綺麗で…、俺はごく自然に、指先で頬に伝う涙に触れていた。





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