《MUMEI》 レモンの香り、ミドリ。「キリアさぁん。」 庭で、栽培しているレモンバームが、お気に入りの俺は、まだ朝の5時だというのに、 一人ひっそりと庭に出て、レモンバームを摘んでいた。 俺は、朝のこの静かな一時が、好きだった。 柚樹の声が聞こえる。俺を呼んでいるようだ。 「あ、ここにいらしたんですね。」 柚樹は、まだ従業員が、みんな眠っている時間帯に、きちんと制服に着替えていた。 対する俺は、ここの一番偉い人間なのに、パジャマのままだった。 「なんだ?どうした。」 ここは、ホテルシリウス。遡れば、江戸時代から続く、老舗な宿屋。 でも、老舗ってだけで、とくにイケてない。 俺は、ここで総支配人として働いている。 今朝も、何かあったようだ。 前へ |次へ |
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