《MUMEI》

「あれーツンは?」

「みきすねが餌あげないから代わりに行ってるよ。」

バァちゃんは皿を拭きながら窓を覗く。
犬のことすっかり忘れていた……。
風呂上がりに夜風は辛い。木の根の近くで犬の食べている音が聞こえた。

ジィちゃんの後ろ姿が見えた。



『………………××だろう……!…………』

ジィちゃんが叫んでいた。

「ジィちゃん、違うだろ!全然違う!
知っているはずだよ、もう死んでしまった……」

ツンからジィちゃんを引き剥がす。
ジィちゃんは今までにないくらいの力で抵抗した。

事もあろうにツンは黙ってジィちゃんに抱き着く。

何故か嬉しそうに見えた。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

静かに謝罪を込めてツンはジィちゃんに囁いた。
ジィちゃんに引っ掻かれても全然抵抗しないツンはなんだか不気味だった。



「悪ぃな。」

首の引っ掻き傷を消毒する。

「そういうこと気にしないし……いっ……。」

多少染みたようで傷口消毒液が当たるとびくついた。

思いの外ツンは細くて白い首をしていて、なんだか爪が立てたくるのも分かるなとか……いや、ジィちゃんはそういう意味で襲った訳じゃないってのは知っているけども。

少なくともツンの反応はおかしかったよな。

「ジィちゃんたまに俺のこと孫と勘違いするんだよな。
まさか、ツンを見間違えたとはさ……。
普段は俺のこともそんな間違えないんだけどさあ、いや間違えてもそんなの気にしないくらいジィちゃんが好きだったんだ。

なんでかなあ……、ジィちゃんがツンを間違えたのを見て?お前の傷を見て?……たら、なあんか胸がもやもやした……。」

「ジィちゃんに?」

脱脂綿を指ごと摘まれた。なんだかが余裕ある。

血が付いた指先を鮮やかな舌先で拭った。なんだか鳥肌が立つ艶を醸している。

「そうだよ!冷えてんぞ、早く風呂入れよ」

ツンの出す空気にあてられないように距離をとる。

「わかった。」

ツンはあっさり俺に従って風呂場へ行った。





「みきすね、もう寝るわね。ツンちゃんには一階のお部屋で寝てもらいなさい」

「わかった。おやすみー」

バァちゃん達と暮らしてから早寝早起きが習慣付いて八時過ぎた今はもう眠い。

洗面所を使うのに風呂場が隣にあるせいで遠慮していたがあまりに出てこないから歯を磨きに行く。

「みきすねー背中ー」

開いた扉の隙間から泡立ったスポンジが見えた。

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