《MUMEI》
隆志視点
「泣かないで…ね?」
裕斗の方が泣きだしそうな、でも少しだけ笑ってて……
裕斗は俺の頬に手を添えたまま…眼を閉じ、近づいてきた。
軟かな裕斗の暖かい唇が…
俺の唇に…触れてきた。
――ただ、重ねるだけの…幼稚なキス…。
でも何故だか、とてつもなく切なくて、苦しくて…
俺はゆっくりと眼を閉じる。
…一気に愛しさが込み上げてきた。
裕斗が頬にかけていた手を俺の膝にぱさりと下ろすと、反動で僅かかに唇が左右に擦れた。
すると過剰な程に敏感になってしまった唇から…甘い痺れが突き抜けてしまい…
唇がゆっくりと離れたと同時に俺は自分でも信じられねー程、身体の力が抜けた。
「ゆう…と…何で…」
躰がふわふわする。
そして一晩中張り詰めていた心がプッツリと切れた気がした。
「は、なにいきなり可愛いくなってンだよ、
俺だって男なんだぞ、…襲っちゃうぞ?なーんて…」
何時もの…裕斗の笑顔だけど少し困った様な色も漂わせている。
「…はは、俺裕斗なら喜んで抱かれるよ…」
本当に本心で俺は吐いた。いや、そこまで関係深くなれたら、マジで嬉しいし。
「マジで言ってんのかよ、止めといた方が良いって…」
裕斗は立ち上がり、カウンターに行ってしまった。
出来上がったコーヒーを自分でカップに注いでいる。
「スッゲーマジだよー…、つか俺…なんなんだよ…」
なんか恥ずかしい。
でも裕斗には悪いけど…気持ちが楽になった…。
俺は膝を抱えたまま 裕斗の方を見る事が出来ない。
―――俺こいつの事、めちゃめちゃ好き過ぎる…。
ヤバいよ…
何で優しいキスなんか…
「よし!こうなったらもう気合いだね…」
裕斗は携帯を耳元に充て、カップを持ちながらベッドの方に歩いて行く。
その表情は、一気に吹っ切れたみたいにサバサバとしている。
裕斗は……
俺なんか敵わねー位…
大人だ…
「隆志、黙ってろよ、今から俺と秀幸との問題だから」
余裕な表情で俺を見つめながらそう言い…
「もしもし…」
電話の先と…話を開始した。
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