《MUMEI》
昭一郎
「まだいるんだ。」

兄貴はあからさまな眉間の縦皺で不快の意志表示をしている。

「……別に俺の家の客なんだからいいだろ。」

「こんにちは」

ツンは俺達兄弟の間に呑気に挨拶を交わす。
昨日よりも増したツンの色気から逃れるように離れてゆく。

「行っちゃった」

ツンはきょとんとして兄貴の背中を家に入るまで見送った。
同じ敷地内にいるから嫌でもお互い目に付いた。

除雪は俺がやることになっていたし、少し気を遣って兄貴達の道を掃けてやっていたのにこの態度だ。

「クソッ」

吐き出すようにダンプシャベルで掘り上げた。

「兄弟仲悪いの?」

「別に悪くは無いんだけど干渉しない程度に互いに距離置いていたし。」

……こうも敵意を剥き出しているのはツンの色気が思い出させるからだ。

「俺のこと嫌っているんじゃない?」

「……鋭いね」

「空気は読めるからね。」

深く被る帽子から艶やかな黒瞳が覗く。

「お前の持ってきた都会の空気が嫌なんだってよ。」

近からず遠からずだな。
兄貴がツンを嫌がっていることには違いない。

「残念だなあ、嫌われることしたつもりはないんだけど……」

本気で兄貴がカッコイイと思っていたのか?
と言うのは止めておく。
シャベルを足元に挿して手を休めた。



「気を悪くしたならすまなかったよ。」

「謝らなくていいよ。無視されるよりずっといい。」

価値観の違いだ。
俺は逆に兄貴が距離を取ってくれた方が助かる。
ぐちぐち言われるとつい悪態をとってしまい、互いに思ってもない言葉が突いて出るから。

「俺は兄弟喧嘩とか憧れちゃうな。」

「ああ、ツンは一人っ子っぽいものね。」

「どういう意味?」

そのまんまの意味だ。
どこかマイペースなとこがあるし。

「憧れかー……兄弟なんて、いても結局は独立して他人になるんだ。」

「それでも一人よりずっといいよ。」

ツンは読み取れない表情をする。





「……寂しいのか?俺が兄貴になってやるよ」

自分でも驚く。無意識に口から零れ出た。

「…………いやだあ、こんな兄ー!」

ツンは一瞬目を丸くして大笑いする。

「笑うな畜生!」

ツンに怒りの雪玉を投げるも避けられた上に反撃された。

顔面で雪が砕けた。

「………………ッ!」

声も出ない。

「ごめんごめん、……冷たい。」

嘲笑いを堪えツンは指で俺の顔面に塗れた雪を払う。

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