《MUMEI》 双子 最終話有理が始めた芸能活動。 たまに有理のワガママで代わりに仕事に出たりして、その時は右も左もわからなくて少しばかり有理を恨めしく思ったこともあった。 でも今、それがオレにとって生きがいになっている。 演技力、歌唱力、コミュニケーションの取り方、人間関係、複雑に混じりあう感情。 いろんなものが必要で、人によっては生きにくい世界。 様々な出会いがあり、それはすばらしい。反対に汚い面も垣間見える。 必ずどこかで誰かが見ていて、気が滅入ることもしばしば。 それでもファンのために笑い、歌い、時に踊る。疲れてても、ファンの姿なんか見えないのにカメラの向こう側にいると信じて精一杯笑う。歌う。しゃべる。 『「仕事」って言うな』 有理に前、言われた言葉。 『「仕事」じゃない。神様がくれたお前の「人生」だ。生きていくために必要不可欠な要素。空気とか、水と同じだよ。忘れんな』 きっと、有理にとってはそういうものだったんだ。それをオレ、“流理”という分身に託すことによって納得している。 空気を、水を手放したんだ。そんな大変なものを託されたオレは正直逃げたくなった。 あまりにも負担が大きすぎる。オレには無理だ。そう思った。 ……でも、有理がただひとり頼れたのはオレだけだった。 父から発せられた精子の頃から、母親のお腹の中で共に卵に出会い、人間という存在として共に認められた。オレにとっても、有理にとっても互いが特別で、大切で、家族で、兄弟で、親友であり、ライバルでもある。 有理の信頼を失いたくなかった。兄としての威厳というものもある。何より、有理のがっかりした顔を見たくなかった。 だから弱音は吐かなかった。 オレの オレだけの 弟ために。 有理、オレ達はずっと永遠に双子だ。多分、前世もこれからも生まれ変わっても。当然、じいさんになったって。 どんなに遠く離れたとしても、互いが互いを必要とし、必ずどこか側にいる。それは身体としての存在じゃなくて、心が必要として無意識に求めてしまうからだ。 双子とは、見た目が同じだけじゃない。心がつながっているんだ。 …‥特に、オレ達はな。 END 前へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |