《MUMEI》
我輩は佐藤である。
俺は佐藤だ。名前はまだない。いや、あるけど覚えてもらえた試しはないから敢えて口にしない。

日本の高い人口率を誇る佐藤の一人だ。
光あれば闇があり、今日も俺は日影者として高校生活をエンジョイする。

「佐藤今日は放送だよな?」

この超薄味の凡人は藤田だ。名前は覚えられない。俺と藤田はクラスも部活も一緒であり、度々後ろ姿、名前でさえ間違えられる。
クローン説が浮上する程だ。高校入るまでまるで面識が無かったが今や登下校まで行動を共にしていた。

なんでこんなに仲が良くなったのかは謎だ。藤田に聞いてみようかとも思ったが俺が分からないことは分かるはずない。

ちなみに彼がいうのは放送部員が毎日行う昼の放送のことだ。
今日は当番の俺達が弁当を持って放送室で食べる。



…………はず?

「何?」

藤田は黙って方向転換する。ノブに回しかけた俺の手を黙って払われた。

扉に宛てがわれた小さな硝子から顔を出す。

「馬鹿!」

怒鳴られた。

「……あっ」

……ああー……。



青いラインの靴が一足飛び込んで来る。学年で上靴は色分けされていてあの青いラインは三年生のものだった。
死角になっている棚から惷く影が二つ……


先輩、防音は出来ても放送室内に設置されたテレビ放送用のスタジオの硝子で死角の様子が丸見えなんです。




「……あれっ?今日一年の日だっけ。」

熱っぽい息を切らせながら扉の半分から顔を出す木下先輩の凄艶さ……。
喉元に赤みが入っていて、視線がいってしまう。

気付いたようで長い指で隠した。…………エロっ。

「な……内緒ね?」

頬を紅潮させ人差し指が唇の前に動いた。

「今日の放送は俺達が代わりにやっとくから」

木下先輩の頭上から内館先輩が笑っていた。

「知らなかった……。」

素知らぬ顔で通り過ぎれば良かったのにその場で釘付けになってしまっていた。

今まで木下先輩と内館先輩は親友だと思っていたし。

「俺実は知っていた。」

「嘘ぉ!」

藤田……あなどれねぇ。

「その……部室でキスしてるのは何回も見た。」

うおー何回も!

「木下先輩に関してなら分かる気がするな……いや、俺は違うからな?」

違う言ってるだろ距離を置くな。距離を!

「俺もそういうんじゃないけどあんだけイチャってたら羨ましくはなる。」

流石クローン、考えることも同じですね。

「そう簡単に彼女は出来ないよな」

溜め息……。

「柔らかいキスしてぇ」

「うわ、その言い方悲しいなあ。」

俺もしたいけど。
男同士でもあんだけ愛し合うところ見せられたら憧れる。


「…………する?」

「えっ」

我が耳を疑う。藤田、血迷ったか!

「ところで明日は俺達が先輩の代わってくれた分の昼の放送をすればいいかな。」

「……さぁー?」

平然と話題を変えられた。……冗談だったのか?

先輩達の熱烈なラヴシーンと藤田の悪趣味なジョーク以外は特に変化も無く、いつもの通りに放課後→部活動コースだ。

掃除無しの日だから部室に直行する。

「あ、こんにちは……」

「こんにちは……」

木下先輩が先にいた、互いに昼のことを思い出してぎこちなく笑う。
てか、昼の放送は先輩達の気遣いで毎週手伝ってくれているけど放課後の部活動は三年生が受験のため引退して出てなかったはず……。

「木下先輩!ちゃんと話聞いてますか?」

「はいはい聞いてますよ」

高遠先輩だ、遠征以来テレビでしか見てなかった。
久し振りに出席している。

「……それで俺の実家に行く時間が取れないんです。朝から晩までセックスする余裕はあるくせに!」

ブッ!
高遠先輩の話題が以外と激しかった。

「わざわざ呼び止めておいて惚気にしか聞こえない」

「本気で悩んでるんです!最近忙しすぎて滅多に会えないし、会ったら会ったでなし崩しにセックスしちゃうし。」

高遠先輩に恋人がいるって……大スクープじゃないか。しかも親と会う仲。

「きっぱり親に紹介したいと言って話し合えばいい」

木下先輩の正論だ。

「後輩君はどう思う?」

高遠先輩がいきなり俺に振ってきた。

「えっ?」

「佐藤を困らせるな」

木下先輩が鋭利な睨みをきかせる。

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