《MUMEI》

自転車をこぎながら、
隣のりかちゃんに目をやる。


少し、淋しそうだ。


―…梶野、ホントは途中まで
オレたちと同じ道のはずなのに…


…結構やるな。


そんなことを考えながら
りかちゃんにかける言葉も思いつかなくて、
ただ自転車をこいでいると、



「江藤―…せんぱい??」



りかちゃんから声を掛けてきた。



「ん??あ、えっくんでいーよ♪
先輩って言われんの、なんか慣れないし!!
えーと…なに??」



そう返すと、



「じゃあ、あの…えっくん…

―…りかと会ったこと、ありますよね??」



―びっくりした。

びっくりして、自転車を止めてしまった。



「…え…っと…」



答えられずにいると、



「1回目は、駐輪場。
2回目と3回目は橋。
―…4回目は…
ゴミ捨て場の近くの裏庭で」



―マジっすか…。

全部、気づいてたか…



「えーと、全部、ホントに偶然だから!!
―…裏庭のは、悪かったと思ってるけど…」



オレが言うと、りかちゃんは



「別に怒ってません。
やっぱり、えっくんだったんですね♪
―…よかった」



と、微笑んだ。



「…よかった、って―…??」

「ああ、変な人じゃなくて、ってことです☆
えっくん、妹さんいるんですねぇ♪
二人乗りがあんまり可愛かったから、
つい笑っちゃいました」



そう言って、りかちゃんはまた笑う。


その笑顔に、オレはドキッとした。



「…りか、一人っ子だから、羨ましいです♪…えっくんみたいなお兄ちゃんが欲しいなあ!!」

「…オレ??―…ダメだよ!!きっと、
自慢できる兄ちゃんにはなれん!!」



笑って答えると、



「え〜??そんなことないですよぉ!!
えっくんカッコいいじゃないですか☆」

「そう??ありがと〜♪」



…この子は、さらっとお世辞言うなあ…

これももてる理由の一つか。



「…あの、梶野せんぱいのことなんですけど…」



少し沈黙があったあと、
りかちゃんが切り出した。



「…どんなひとですか??」

「…どんなひと、ねえ…
一言で言うと、“イイやつ”かなあ…??」



…やっぱ、気になるんだろーなあ…



「そうですかあ!
―…実はりか、男の人に絡まれてるとき、梶野せんぱいに助けてもらったんですよ」

「え!?そーだったの!?」

「はい。…でも、すぐ帰っちゃって、
名前も聞けなくて―…」

「そっか…」



そんなことあったのか。

…でも、梶野のほうは『初対面』
みたいな感じだったぞ??



「ふつう、りかみたいに可愛い子、
ほっときませんよねえ??
連絡先ぐらい、訊くでしょ!!」

「だよなあ??」



ん??


りかちゃん、今なんか雰囲気違ったような…



「…相原先輩が原因ですね!!
りかのほうが、絶対かわいいのに!!」

「………」



んん??


あれ??りかちゃん??



「じゃあ、えっくん、そういうことで♪
また明日、会いましょうね☆」

「お、おう!!」



そう言って、りかちゃんとは別れた。


なんか、なんか…


後半、本性が見えた、って感じだったな…


綺麗な花には、棘がある…


可愛い子には、裏がある…??

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